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【バイヤーO】の現代ミステリ概論 第3回 法月綸太郎(のりづき・りんたろう)編

2021年1月6日 投稿

あけましておめでとうございます。ミステリ好き【バイヤーO】の偏愛暴露企画のお時間です。
第三回は再び「新本格第一世代」に回帰し、「日本のクイーン」の異名を誇るあの名手です。(※エラリー・クイーン:『ローマ帽子の謎』に始まる「国名シリーズ」、『Xの悲劇』に始まる「ドルリー・レーン四部作」などで知られる米作家。ミステリ史上最煌の巨星のひとつ)
前二回に少々個人的な思い入れが強すぎた反省(隣席のS女史に「誰に向けて書いてるの?」と言われました)から、今回はスマートさを心掛けて参ります。
そう、ちょうど法月綸太郎の推理のように…(うまくない)

異形の青春ミステリ。 『密閉教室』のエヴァーグリーン

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密閉教室 新装版

著者名
法月綸太郎/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
902円

1988年刊行のデビュー作。綾辻行人と同じ京大推理小説研出身の法月は、綾辻から遅れること1年、同じ講談社ノベルスから、同様に島田荘司の推輓を得てデビューします。その後の「日本のクイーン」のイメージとは若干異なる、少し(…いや、だいぶ)変わった青春ミステリで。

ある高校の教室で、男子生徒の死体が発見される。現場の教室は目貼りまでされた密室状態で、48組の机と椅子が忽然と姿を消していた。
主人公・工藤順也はミステリマニアの本領発揮、目の前に現れた現実の事件に欣喜雀躍、探偵役として謎解きを始める…。

主人公からして頭でっかちの皮肉屋で、出てくる教師も生徒たちも一癖あるヘンな奴ばかり。彼らが刺々しくやり取りしながら、非現実的な密室の殺人事件が突き崩されていく。
酷く歪んだ青春小説なのですが、なんだろう、未だにこれが憧れの青春なんですよね。青春の痛々しさと、表裏一体の眩さを、本格ミステリというフィルタを通して現出させた、オリジナリティ溢れる作品です。
新本格の潮流に連なる誰もこのようなものは書かなかったし(学園ミステリの作例は多いにもかかわらず!)、法月自身も以降書いていません。新本格ミステリにおける「青春」は、この作品に結晶し、密閉されたものと感じています。


法月二大悲劇、『頼子のために』『一の悲劇』の凄み

『密閉教室』以降、法月は作者同名の名探偵・法月綸太郎の事件簿を書き始めます。
小説家を生業とする青年探偵・法月(とその父にしてワトソン役である捜査一課警視・法月貞雄)は、第二作『雪密室』でデビュー、続く『誰彼』まではパズラー(謎解き・犯人当てに特化したミステリ作品をさしていいます)にその手腕を発揮しますが、その後『頼子のために』と『一の悲劇』でそれまでと全く異なる事件にぶつかります。

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頼子のために 新装版

著者名
法月綸太郎/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
924円

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一の悲劇

著者名
法月綸太郎/著
出版社名
祥伝社
税込価格
712円

『頼子のために』では通り魔(に見える)殺人、『一の悲劇』では誘拐事件が発端となりますが、やがて驚くべき悲劇の構図が明らかになるという点で共通しています。
本格ミステリにおいて等閑視されがち(…あるいは失敗しがち)な、人生の、あるいは家族の、降りかかる悲劇としてのインパクトを克明に描き出した、法月初期の二大傑作です。
この時期の法月がこうした作風に転換したのにはいろいろと専門的な背景があるのですが、それを批評的に述べることは本稿の趣旨にそぐわないので行いません(しできません)。
ただ、当時ハードボイルドの業界も震撼させた国内ミステリ史上屈指の人生悲劇、その「さむけ」のするような凄みを、ぜひ味わっていただきたいとのみ…あと、TVドラマ版『一の悲劇』の、法月に長谷川博己のキャスティングはなかなか素晴らしいよね、と…。


これぞ「日本のクイーン」!! 「都市伝説パズル」のロジック・ビューティ

寡作で知られる法月ですが、長編『生首に聞いてみろ』や実験短編集『ノックス・マシン』で「このミス」一位を獲得するなど、その仕事は常に高い評価を得ています。個人的に本格ミステリの界隈で最も怜悧な知性を感じる作家ですし、その魅力が端的に現れるのが短編の仕事。

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名探偵傑作短篇集 法月綸太郎篇

著者名
法月綸太郎/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
1,012円

ここで特に言及したいのは法月シリーズの短編「都市伝説パズル」(オリジナル短編集では『法月綸太郎の功績』所収)。
「電気をつけないで命拾いをしたな」というメッセージに特徴付けられる、「ルームメイトの死」と呼ばれる都市伝説は、たとえば『ジョジョの奇妙な冒険』第四部にもバリエーションがフィーチャされている有名なものですが、それが現実の殺人事件として起きた時に、どのような解決が導かれるのか、というのが読みどころです。
都市伝説をなぞるような被害者・容疑者たちの行動とその謎が、ロジックによって余すところなく説明され、解決に導かれる快感は、国内ミステリ史上NO.1のロジック・ビューティ。短編作品におけるオールタイム・ベスト、全人類必読の名作と言い切ってしまいます。

本格ミステリという小説ジャンルの独創性には、トリック、サプライズ、伏線、ミスディレクション等様々な要素がありますが、「都市伝説パズル」に代表される法月作品は、犯罪、殺人という無秩序を、冷徹に秩序の側に回収する、「ロジック」という刃の鋭利な顕現であり、その独創を代表する大家の名…「日本のクイーン」の異名が、誰よりも法月綸太郎に冠せられるべきと考える所以です。

この路線では「ヒュドラ第十の首」も取り上げたかったのですが、所収の短編集(『犯罪ホロスコープⅠ』)が品切れでした…。ささいな手がかりからドミノ倒しの如く展開されるロジックが圧巻ですので、なんとかして読んでいただきたい傑作です。

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犯罪ホロスコープ 1

著者名
法月綸太郎/著
出版社名
光文社
税込価格
682円

大人も楽しいハイクオリティ・ジュブナイル 「怪盗グリフィン」シリーズ

案の定思い入れの先走った記事になって参りましたので、最後にかわいらしい作品をご紹介します。

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怪盗グリフィン、絶体絶命

著者名
法月綸太郎/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
671円

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怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関

著者名
法月綸太郎/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
792円

講談社のジュブナイル・ミステリ・レーベル、「ミステリーランド」から刊行された作品。
美術品・芸術品を専門とする怪盗(大概そうか?)・グリフィンが、様々な陰謀に巻き込まれる冒険活劇です。

ミステリの原体験って、小学校図書館のホームズやルパンだったりしますよね? あるいは乱歩の少年探偵団とか。
そうした童心が沸くアッパーな読書体験が楽しめる本って、リアルタイムではなかなかないと思いますが、この本はまさにそうしたものです。
ミステリやSF、他サブカルチャーへの深い造詣が生かされたプロットや、様々に仕掛けられた「くすぐり」にもニヤリとしますが、まず何より冒険活劇として問答無用で楽しいのが素晴らしい。童心に帰る、とはこのことです。
大人も子どもも楽しめる、ウェルメイドな怪盗物語。これはいいものだ!!


※商品は各店舗でも取扱い中です。


書いた人:バイヤーO
高校時代は工藤順也になりたかったミステリ好きバイヤー。
『密閉教室』について、『ヴィーナスの命題』(真木武志/角川文庫)を系譜作として挙げるつもりが長く品切れでした…。
青春ミステリについてはまた稿を改めてご紹介したいと思っています。

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