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『新九郎、奔る』『逃げ上手の若君』 漫画界に「室町ブーム」が到来!?

2021年6月16日 投稿

こんにちは!
歴史と地図と旅行が大好きの 大田川店の雪餅です!

普段は 歴史本や趣味の本の記事を書いています。よかったらサイト内で「雪餅」と調べてみてくださいね。

最近書いた記事
⇒地元の城の歴史に思いを馳せる「城跡ウォーキング」

さて 今回は、地味で複雑? 政変や戦乱の多い混沌の時代「室町時代」の本のご紹介です!

『応仁の乱』の大ヒットから5年……

2016年10月に発売された『応仁の乱 -戦国時代を生んだ大乱-』(中公新書)は、有名な偉人も登場しない歴史通向けのお堅い新書ながら、発売後5カ月で30万部を超える大ヒットとなり、空前の「室町ブーム」が到来しました!

応仁の乱は、室町時代の中期 1467年から1477年までの約11年間 続いた内乱で、名前こそ教科書に出るほど有名ですが、その中身はというと、、、
幕府管領家の家督争いから始まり、足利将軍家や有力な守護大名を巻き込み、戦場も京都から地方の領国へ広がるという、なんとも壮大でぐだぐだな大乱でした。
しかも、この新書『応仁の乱』は決して入門書ではなく、主戦場の京都ではなく奈良の興福寺の僧の視点から始まるという通好みの構成で、読了できない挫折者も多かったのではないでしょうか。
おかげ様で、漫画や解読本もよく売れました。
ありがとうございました!

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応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱

著者名
呉座勇一/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
990円

複雑な室町時代を知るのに最適な入門書は、丸山裕之先生の『図説 室町幕府』(戎光祥出版)です。
年代順に書かれたよく見る通史ものとは違い、室町幕府の役職・制度の解説に半分以上のページを割いている点がポイントです。
「図説」とある通り、各家の略系図などの図表やカラー写真が豊富で、資料集をめくる様に楽しく読めます。
室町幕府の特徴を先に抑えることで、応仁の乱をはじめとする内乱・政変の流れを掴むことができます。

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図説室町幕府

著者名
丸山裕之/著
出版社名
戎光祥出版
税込価格
1,980円

そんな「室町ブーム」から5年経った、2021年。
歴史ファンの間で、再び衝撃が走りました―――。

『週刊少年ジャンプ』松井優征先生の新連載は
「北条時行」が主役!

―――だれ??

教科書にも登場しないマニアックなチョイスに
その日は「北条時行」がトレンドワード入り!
有識者によるWikipediaの補填も行われました。

そう、殆ど知られていないですが、鎌倉幕府滅亡から室町時代初期(南北朝時代)にかけて波瀾万丈の生涯を歩んだ武将なんです!

北条時行の生涯を描く『逃げ上手の若君』

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逃げ上手の若君 1

著者名
松井優征/著
出版社名
集英社
税込価格
484円

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逃げ上手の若君 2

著者名
松井優征/著
出版社名
集英社
税込価格
484円

北条時行(ほうじょうときゆき・ときつら)は、鎌倉幕府最後の得宗(北条一門の最上位)であった北条高時(たかとき)の遺児です。
後醍醐天皇と足利尊氏(あしかがたかうじ)によって鎌倉幕府を滅ぼされた時も何とか逃げ延び、北条方の残党を糾合して起こした「中先代の乱」や、その後の南朝方の武将としての戦いで、鎌倉を三度奪還しました。
短期間の占拠とはいえ、かつての鎌倉幕府の首都を実力で征服した武勲が評価されて、「先代」北条氏・「当御代」足利尊氏と同質の「中先代(なかせんだい)」と呼ばれています。

挙兵から僅か24日で鎌倉幕府を滅ぼした武将「足利尊氏」と室町幕府勢力と何度も戦い、20年もの間、生き延びてきた北条時行。
時行の強烈な個性「生き抜く力」を、『魔人探偵脳噛ネウロ』『暗殺教室』などで知られる松井優征先生が描きます。
ストーリーは最新の通説に沿って構成されていますが、逃亡中の合間など未解明な部分もまだまだ多いので、そこは先生の創作ストーリーになるはず。
ラストも含めて、期待大です!

まずは下のボタンから試し読みしてみて下さい。
単行本1巻は7月2日(金)、2巻は8月4日(水)発売です。

ここで『逃げ若』の副読本を紹介したいところですが、残念ながら北条時行を扱った本は まだ少ないんですよね~

でも安心してください。
先の「室町ブーム」の火付け役の中央公論新社様が、この商機を見逃すはずがありません!!

『中先代の乱 ―北条時行、鎌倉幕府再興の夢―』
7月19日(月)に発売決定!

著者は、鎌倉北条氏を中心とする中世史研究者の鈴木由美先生。
鈴木先生の最新の北条時行研究の成果を、お手頃価格で読めちゃいます。
ぜひ『逃げ若』と一緒に楽しんでください!

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中先代の乱 北条時行、鎌倉幕府再興の夢

著者名
鈴木由美/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
902円

北条時行の宿敵「足利尊氏」と室町幕府

さて、『逃げ若』では主人公時行の敵役として、イケメン青年風に描かれている足利高氏(尊氏)ですが、この人もこの人で波乱の人生を歩んでいます。
源頼朝や徳川家康と違い、室町幕府を創めてからずっと内乱と政変続きの毎日でした。
その行動の動機には謎も多く、多重人格者に思われたり、後醍醐天皇と一緒に悪党だったと片づけられたりしています。
個人的には尊氏は面倒見の性格で、本人は天皇家に運営を任せて隠居したいけど周りが許さなかったんじゃないかなぁと思ってます。

足利尊氏を知る上で欠かせないのが、弟の足利直義(ただよし)との関係です。
兄弟で共に旧鎌倉幕府を滅ぼし、後醍醐天皇の建武政権を経て、室町幕府を築き上げました。
しかしその後二人は、執事の高師直(こうのもろなお)や尊氏の子・直冬(ただふゆ)を巡って対立し、南朝勢力も巻き込んだ室町幕府を二分する戦い「観応の擾乱(かんのうのじょうらん)」へと至ります。

「二頭政治」とも呼ばれた尊氏と直義の室町幕府の政権確立については、山家浩樹先生の『足利尊氏と足利直義』(山川出版社)
その後の擾乱については、亀田俊和先生の『観応の擾乱 -室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い-』(中公新書)がおすすめです。

それにしても、尊氏の戦の強さは異常ですね。

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足利尊氏と足利直義 動乱のなかの権威確立

著者名
山家浩樹/著
出版社名
山川出版社
税込価格
880円

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観応の擾乱 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い

著者名
亀田俊和/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
946円

「後醍醐天皇」の建武政権と南北朝時代

中先代の乱で北条時行は、足利直義を破り 見事鎌倉の地を奪還しましたが、20日後には足利尊氏に逐われてしまいます。
その後、後醍醐天皇と尊氏が袂を分かち 南北朝時代に突入すると、時行は後醍醐天皇から朝敵を赦免され、南朝方の武将として北朝勢力(室町幕府)と戦いました。
足利尊氏の打倒と、鎌倉の奪還を優先した訳ですね。

南北朝時代については、各先生方の研究成果を編纂した『南朝研究の最前線』(朝日文庫)が読みやすいです。
「足利尊氏は建武政権に不満だったのか?」
「後醍醐天皇は本当に異形の天皇だったのか?」
というQ&A形式で建武政権と南朝政権の実像に迫っています。
ちなみに、先の鈴木由美先生も「北条氏と南朝」の項で、北条時行を始めとする北条勢力の反抗の様子をまとめています。

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南朝研究の最前線 ここまでわかった「建武政権」から後南朝まで

著者名
日本史史料研究会/監修 呉座勇一/編
出版社名
朝日新聞出版
税込価格
924円

さらにもっと南北朝時代の知識を深めたい方のために、2021年の今年「中世武士選書」でお馴染みの戎光祥出版さんから素敵な本が出ましたよ~

『南北朝 武将列伝』(戎光祥出版)
南朝編と北朝編の2分冊で、足利尊氏や楠木正成などのメジャーな武将からマイナー武将まで合計84名の生き様を紹介しています。
各編400頁超のとっても盛りだくさんな内容で、厨二心がくすぐられます。
まだ読んでいる途中ですが、この2冊だけで1年は楽しめますね。
もちろん南朝武将の一人に「北条時行」が入っています!

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南北朝武将列伝 南朝編

著者名
亀田俊和/編 生駒孝臣/編
出版社名
戎光祥出版
税込価格
2,970円

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南北朝武将列伝 北朝編

著者名
亀田俊和/編 杉山一弥/編
出版社名
戎光祥出版
税込価格
2,970円

伊勢新九郎の生涯を描く『新九郎、奔る』

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新九郎、奔る! 1

著者名
ゆうきまさみ/著
出版社名
小学館
税込価格
759円

『逃げ若』に負けず面白いのが、戦国大名の嚆矢として名高い 伊勢新九郎(早雲庵宗瑞・北条早雲)が主役の歴史漫画『新九郎、奔る』です。
『究極超人あ〜る』『機動警察パトレイバー』でお馴染みの ゆうきまさみ先生の最新作で、2018年に連載が始まりました。
家族や家来ら仲間内の明るいやりとりと、食えない大人たちの政治劇がバランスが良く詰め込まれていて、読み応えのある作品です。
また、室町幕府の政所たる伊勢氏の活躍と苦悩、応仁の乱に始まる京の荒廃などが、新九郎視点で描かれていて、歴史読物としても最上級です。

実は近年まで 伊勢新九郎(北条早雲)は、流れ者の素浪人から関東勢をなぎ倒して戦国大名にのし上がる「下剋上の典型」とされてきましたが、ここ数十年で研究が進み、室町幕府の政所執事を世襲で務めていた「伊勢氏」の一族であることが確実となっています。
ちなみに、60歳を過ぎてから本格的に領国拡大に乗り出し、最晩年の80歳を過ぎても自ら兵を率いて戦う「大器晩成型の戦うおじいちゃん」の享年88説も覆され始め、30代半ばから活動を開始した享年64説が主流となりつつあります。
それでも十分凄いですよね。
『新九郎、奔る』は、伊勢氏一族の享年64説に則っています。

戦国大名の嚆矢「伊勢新九郎」(北条早雲)

『新九郎、奔る』の副読本としては、黒田基樹先生の『戦国大名・伊勢宗瑞』(角川選書)がオススメです。
通年的な本格評伝で、幼少期から最期まで伊勢新九郎(宗瑞)の生涯を追うことができます。

しかし、この本から換算して、
『新九郎、奔る』が今の連載ペースで進むと、
完結は100巻超え!?(やったー)
と 妄想したりしています。

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戦国大名・伊勢宗瑞

著者名
黒田基樹/著
出版社名
KADOKAWA
税込価格
1,870円

新九郎が備中国高越城で生まれたころ、関東地方(東国)では、激動の戦乱「享徳の乱(きょうとくのらん)」が始まりました。
29年間も続いたこの戦乱の結果、東国の統治機関である 鎌倉公方(かまくらくぼう)は鎌倉から追いやられ、茨城の古河公方(こがくぼう)と伊豆の堀越公方(ほりごえくぼう)の2人の公方が並存する形となりました。そして両公方は山内上杉家・扇谷上杉家など勢力とも睨みあい弱体化し、もはや東国の統治機関としては機能せず、戦乱の世となりました。
やがて堀越公方は、京の幕府の抗争を利用して 末子を将軍職に就ける計画を企てました。その企てが38歳となった新九郎が堀越公方の本拠地である伊豆に討ち入る理由に繋がっていきます。
『図説 享徳の乱』(戎光祥出版)も一緒に読んでおくと、このあたりの東国事情の理解が深まります。

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図説享徳の乱 新視点・新解釈で明かす戦国最大の合戦クロニクル

著者名
黒田基樹/著
出版社名
戎光祥出版
税込価格
1,980円

伊勢新九郎(北条早雲)は 小説界でも大人気!

伊勢新九郎(北条早雲)は、先の「下剋上」「大器晩成」のイメージもあって、小説の主人公としても重宝されています。
小説の刊行当時の通説に沿って、それぞれ全く毛色の違った「新九郎像」を楽しむことができます。
ここではオススメ小説を3つご紹介。

①司馬遼太郎先生の『箱根の坂』(講談社文庫・全3巻)
20歳代の伊勢新九郎が京都で足利家に仕えていたころから物語は始まり、87歳で没するまでの60年間を描いた物語。
上巻の創作部分「伊勢氏傍流ゆえに一族内で軽んじられ、伊勢家の名品「作りの鞍」を製作する職人」という生活描写が好きです。

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箱根の坂 上 新装版

著者名
司馬遼太郎/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
858円

②富樫倫太郎先生の『北条早雲』(講談社文庫・全5巻)
エンタメ色が強い文体で、とても読みやすい歴史小説です。
伊勢新九郎の幼少期から晩年までを生き生きと描いています。
「民を守るため、お前を討つ!」
戦国大名としての理想の生き様に、読んでいて気持ちのいい作品です。

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北条早雲 1

著者名
富樫倫太郎/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
946円

③火坂雅志・伊東潤 両先生の『北条五代』(朝日新聞出版・上下巻)
火坂雅志急逝による未完の大作を、伊東潤が引継ぎ完結!
まさに受け継がれし物語。
伊勢新九郎(北条早雲)・北条氏綱・北条氏康・北条氏政・北条氏直、百年にわたる後北条氏の興亡を描きます。

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北条五代 上

著者名
火坂雅志/著 伊東潤/著
出版社名
朝日新聞出版
税込価格
2,090円

しかしこれだけ良い作品に恵まれているのに、新九郎には なぜ大河ドラマのお声がかからないのでしょうか。
不思議です。

「よくわからない」こそ 歴史の魅力!

いかがでしたでしょうか。

え? 本を紹介しすぎ?
すみません。基本、歴史の本は全部好きなんです。

特に「よくわからない」室町時代は、自分なり解釈や妄想の余地が多く、様々な先生の本(説)を読んでるだけでどんどん世界が広がって楽しいです。
なので、どうしてもあれもこれも読んで欲しいとなってしまいます。

「まだ懲りないか!」と怒られそうですが、
最後に、ちょっと変わった角度から「室町本」を一冊。
『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社文庫)

世界の辺境を知るノンフィクション作家 高野秀行先生 と、日本中世史専門の歴史家 清水克行先生 の対談本です。
現代アフリカのソマリランドと室町時代の日本は驚くほど似ていた!?
439頁と濃厚な異分野交流をぜひ味わって下さい。
歴史本も小説も漫画も読まないけどTV番組やラジオは好き!という方にもお勧めです。

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世界の辺境とハードボイルド室町時代

著者名
高野秀行/著 清水克行/著
出版社名
集英社インターナショナル
税込価格
1,760円

書いた人:雪餅(大田川店)
歴史や地図、一人旅が大好きの書店員。
青春18きっぷで年3回 鈍行旅行する乗り鉄でもあります。

本とスマホさえあれば、百年は一人で楽しめる自信(病気)があります。

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