menu open

疑い深い書店員が超ショートショートを書いてみた!

2020年11月17日 投稿

『たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座』このタイトルを見た瞬間、まず思ったことは「40分でショートショートが書けるわけないじゃん!!」でした。

ちなみにちゃんと読んでみたら、「ショートショート」ではなく「超ショートショート」だったので、「あっ。……じゃあ、書けるかもしれん」とあっさり掌を返したのですが。

「超ショートショートって何?」という疑問も出てきましたので、ひとまず該当本を読んでみましょう、と。だけどそれだけじゃ面白くないので、その通りに「超ショートショートを書いてみた!」ということでね。進めていきたいと思います。

例えば推しへの想いを文章で表現したいとか、仕事等でアイデアを出さなくちゃいけない、もしくはアイデアはあるけどありすぎてまとめられない! とか。きっと全部ではなくても助けになるかと思いますので、よろしければ、お付き合いください。

ちなみこの本の作者は、現役ショートショート作家である田村雅智先生です。田村先生が、実際に行っている小説創作講座と同じやり方をまとめている形になっています。

ワークシートを使って、超ショートショートを作り上げていくのですが、付録にワークシートがちゃんとついている上に、田村先生のHPにて、それがダウンロードできるんですよ。太っ腹すぎませんか?


それでは私も作っていきますよ、超ショートショート。というわけで下記をご覧ください。はい、どん!!

【名詞を探してみよう】(3分)

犬、薔薇、空、星、雲、テレビ、車、写真、カメラ、くらげ、クジラ、パソコン、本、店、映画、文字、軍艦、長靴、ネコ、扇風機、風鈴、クッキー、紅茶、綿、キーホルダー、カバン、制服、ドライブ、かんざし、お風呂、水族館、動物園、テラリウム、計り

制限時間内に、頭に浮かんだ単語をとにかく書いていきました。
暑くなってきたせいか、夏っぽいものに引っ張られている感

【名詞から思いつく言葉を書いてみよう】(7分)

クッキー から。
甘い、サクサク、何にでも合う、焼き立ては柔らかい、いい匂い、茶色、手土産、お笑い芸人、薄いのも厚いのもある、可愛い、お菓子屋さんにある、アフターヌーンティー、映える、なんでも混ぜられる

そして上は、ガンガン書き出した名詞の中から一つ選んで、それから連想される言葉を制限時間内に出していきます。一人で、同じ単語で、延々とマジカルバナナをやっている状態です。

今回はクッキーから考えてみました。

さて、材料は揃ったので、最初に出した名詞とその中の一つから思い浮かぶ言葉たちを、合体させていきます。

これね、意味が分からないものでも大丈夫。というより、意味が分からない方がいいらしいんですよ。なんと言っても、【不思議な言葉を作る】ですからね。そんなわけで、合体させたものがこちらになります。

【不思議な言葉を作る】(5分)

お菓子屋さんにある本、薄いのも厚いのもある水族館、焼き立ては柔らかい犬、サクサクの文字、なんでも混ぜられるカバン、お菓子屋さんにあるお風呂、サクサクの本、薄いのも厚いのもあるネコ、何にでも合うかんざし、いい匂いのくらげ、サクサクの星、焼き立ては柔らかい空

そして合体させた言葉を一つ選んで、それについて設定を考えていきます。
 ただ今回はそれを自分で選ばず、ちょうど側にいた母を呼びつけて、どれがいいか選んでもらいました。
 もちろん自分で選んでも大丈夫ですし(むしろそっちが普通)、私のように他の人に選んでもらっても面白いかと思います。予想外のものが選ばれるかもしれないので、変なのがきたらどうしようっていう変なスリルが味わえますよ!

ただし他の人に選んでもらうときは、その人にちゃんと説明をしてあげてくださいね。

私の場合は突然聞いた挙句全く説明をしないので、
「今から読み上げる言葉の中で、どれがいい⁉︎」
「(一通り言葉を聞き終わったあと)焼き立ては柔らかい空しか覚えてない。全然意味分からん!」

とスンッとした表情で言われてしまいました。

ちなみに母が選んだ言葉は「焼き立ては柔らかい犬」です。
「焼き立ては柔らかい犬」って何。と自分で作っておいて分かってないので、これからそれについて詰めていこうというわけです。

【それはどんなものですか?】

お日様の光をいっぱい浴びて、こんがり焼き上がった犬。いい匂いがする。夏の日や昼下がり、日差しの強い時間に現れる。寒い日や夜にはあまり見ない。

【いいことは?】

こんがりバターのいい匂いがする。触るとふわふわ。抱いて寝ると心地よく眠れ、いい夢が見られる。

【悪いことは?】

焼き上がったすぐに触ると、熱すぎて火傷する。荒熱を取ろう。しかし熱を取りすぎると、冷めてしまって固くなってしまう。抱いて寝ると起きたときに、溶けた砂糖のような、なんだかネバついた感触がする。

こんな感じになりました!

どうにもクッキーに引っ張れている感が否めないですが、それっぽいのでは!

ここまできたら、最後は簡単です! あとは上で考えた設定を組み合わせて、説明を書いていくだけで、超ショートショートが完成しています! 制限時間は20分です!!

【上のことをまとめる】(20分)

題名:こんがりわんこ

 夏の昼下がりや、日差しの強い時間。そんな暖かい時期には、こんがりと焼けたバターの匂いが、辺りによく漂っている。
 ところで、犬は太陽の光をいっぱい浴びると、こんがりと焼き上がることを知っているだろうか?
 焼き上がった犬は触り心地も良くて、バターの甘い匂いを振りまいている。抱いて寝れば、ちょうどいい温かさだから、心地よく眠れる上に、絶対にいい夢が見られる。とにかく最高な生き物だ。

 けれど注意しなければいけないのは、焼き上がりの直後に触ると熱すぎて火傷してしまうこと。
 それなのに荒熱を取りすぎると、逆に冷めてしまう。冷めてしまった犬は小麦のいい匂いがするが、触り心地は固くて、毛がボロボロ抜けるのだ。後片付けが大変である。
 しかも抱いて寝ると、起きたときになんだか砂糖が溶けたような……とにかく自分がネバついているのを感じる。とにかく目覚めは良くない。
 犬の焼き立てのベストな状態を保つには、温度調節が大事なのだ。

……書けちゃったよぉぉおおおお!!えぇ、私でも書けた。すごい!!
 
そして田村雅智先生、疑って申し訳ありませんでした!!

このやり方は最初に言った通り、創作や仕事等、様々なことに応用が効きます。凡庸性が高い……

「いやいや! そんな凡庸性とかじゃなくて! あんな短くていいの⁉︎」と思われた方こそ、該当本を読んでみてください。該当本に載っている、実際に先生の小説講座内で作られた作品の中には、もっと短いものもありますよ。

154ページしかないので、サッと読めるところもめちゃめちゃオススメです! 手に持つと、本の薄さにびっくりします。こういう本って、大抵分厚いですもんね。

↑↑↑タップで詳細・注文へ↑↑↑

たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座

著者名
田丸雅智/著
出版社名
WAVE出版
税込価格
1,320円

↓お店でお探しの方はこのPOPが目印!!

 それでは最後に、せっかくなのでさっきのものをきちんと物語にしてみましたので、そちらを置いてサヨナラしますね。では。

【こんがりわんこ 改め ある女子高生の日常】

「……お母さーん! 制服にマルの毛がついちゃった〜〜……」
 うわーんと声を上げながら、ついさっきまで着ていたブレザーの上着とスカートを持って、リビングにいるお母さんのところへ行く。
 するとソファに座ってテレビを見ていたお母さんが、くるりとこちらを向いた。しかも呆れたような表情で、やれやれと首を振ってくる。うわ、小言が飛んできそうな気配。
「だから帰ったらすぐ着替えなさいって、いつも言ってるじゃない」
「うっ、そうなんだけど〜〜。今の時期って学校から帰ってくると、マルがいい感じになってるからー……」
 思った通り飛んできたお小言に、私は唇を尖らせて返した。寝起きなのもあるけど体がベタベタして気持ち悪いので、虫の居どころがあんまりよくないのが自分でも分かる。
「そのままだとマルの毛がつくだけじゃなくて、シワになったりよれたりして大変なんだから。制服って、アンタが思ってるよりずっと高いのよ?」
「以後気をつけまーす」
 ブツブツともう何度聞いたか分からないことを言いながら、お母さんがコロコロを手渡してくる。それを受け取りながら、私はこれまた何度言ったか分からない返事をした。
 そのままコロコロを制服の上で力任せに転がしていると、フローリングを小さく蹴る音が聞こえる。カラカラという可愛らしい音は、そのままどんどんリビングの方へ近づいてきた。
「わふ!」
「マル〜〜!」
 私が来たときに開けっぱなしにしておいた出入り口から、ひょっこり顔を出したのは、うちのスーパー可愛いわんこ。マル。彼の顔を見た瞬間、私の中の不機嫌さはどっかに飛んでいった。
 マルはただのわんこじゃなくて、お日さまの光をたくさん浴びるとバターみたいないい匂いがする。焼き立てのクッキーみたいな、とっても甘くて、幸せな匂い。
 しかもその匂いがしているときは、触り心地もふわふわで抱き心地も最高! めちゃくちゃ優しいぬくもりを感じながら寝ると、ハッピーな夢が見られるの。
 昔はこういうわんこはいなかったって、歴史の授業で習った。マルみたいなわんこが主流になったのは、昔の人たちがストレスを抱えていたことが原因だっていうのは聞いたけど、詳しいことはよく分からない。だってその授業、途中で寝ちゃったし!
 今はお日さまの光をいっぱい浴びて、焼き立てのお菓子やパンのようないい匂いを出すわんこばかりだけど、おかげで私たちは確かに昔の人たちよりはハッピーに生きていると思う。
 お日さまの光を浴びてすぐだとちょっと熱かったり、浴びすぎていると火傷しちゃったりすることもあるみたいだけど、この時期は私が帰ってくる時間にベストなあたたかさになっているから、お昼寝がはかどるはかどる。いい感じの焼き加減ということなのだ。
 コロコロをかけている私のところに、マルがやってきた。彼は笑っているように見える顔をこちらに向けて、じっとこちらを見つめてくる。
「よ〜〜しよ〜〜し、可愛いね〜〜」
 あんまり可愛いので、頰を緩ませてマルの頭をわしゃわしゃ撫でた。一緒に寝ていたときより、撫で心地は硬くなってしまったけど、仕方ない。
「……」
 撫でている手を止めて、しまった、そう思ったときには遅くて。ポップコーンが弾ける勢いで、そこそこの量の毛がふわふわと抜けていく。
「あ〜〜あ、ちゃんと掃除しとくのよ」
「……分かってるよお‼︎」
 後ろからお母さんにやっぱり呆れたような声でそう言われて、私はそれを打ち返すように声を張り上げた。
 心配そうに、マルが私たちを見ている。ごめんね、マル。お前が悪いんじゃないだよ。そう思いながら優しく撫でると、また毛が抜けた。……ゔぅん。
 いい匂いを出し終わったわんこは、毛がとにかく抜けやすくなる。触り心地が硬くなってしまうのも、要は冷めたクッキーやパンと同じってこと。
 それに寝汗をいっぱいかくからか、マルと寝るときは起きたときちょっとベタベタする。
 いいことばっかりじゃないけど、私はマルが大好きだ。
 制服についた彼の毛を取りながら、ぼんやりとそう思う。するとマルも私の考えていることを感じたかのように、嬉しそうに足を進めてきて……。
「あれ、マル? ストップ! ストップ、マル……っ、あぁ〜〜……」
「わふ!」
 天井を仰いで、両手で顔をおおう私に、私のすぐ目の前にきたマルは目を細めて元気よく鳴いた。彼の足の下には、今までコロコロをかけていた制服がある。
 後ろからは、堪えきれないと言いたげなお母さんの笑い声が聞こえてきた。いやいや、笑いごとじゃないからね?
 ゆっくり視線を元に戻すと、抜け毛がたくさん周りに散らばっていて、制服の毛を取るのもふりだしに戻っている。
 本当に笑いごとじゃない。笑いごとじゃないんだけど、正直こんな状況、笑うしかないでしょ……。
「……これからはちゃんと、着替えてからお昼寝しよ」
「わふ!」
 がっくりと肩を落として呟くと、分かっているのかいないのか、マルも声を上げた。

 後日。いい塩梅になったマルの魅力に逆らえず、やっぱり私は制服のまま彼とお昼寝をしてしまった。また大変なことになるのだけど、女子高生の日常なんてそんなもんだ! あはは!

この記事は役に立ちましたか?

0