
図書館館長なのに「借りるより買いたい本」を推すシリーズ vol. 2*
日々10万冊を超える本に囲まれながら年間2,000冊以上読む図書館館長がどうしても手元におきたくて買ってしまう本とは?
「アルプス席の母」
いったい登場人物の誰に感情移入しているのだろう。部活に打ち込んだ経験のある人、そして支えた人には間違いなく刺さる小説です。
秋山奈々子―母。秋山航太朗―息子。これは母子家庭の二人を軸に甲子園を目指す物語。
奈々子の周りの一癖もふた癖もある登場人物たちや、航太朗の周りの球児やコーチなどがそれぞれ“思惑”を抱えています。
即戦力となる中学生をスカウトする高校。甲子園常連の強豪高校への入学を願う球児たち。と親たち。経済的な事情から学費等免除の特待生で高校へ入学する球児。自らの実績を上げなければクビになってしまうコーチ。マウントを取り合う親たち。父母会で続けられてきた到底納得のいかない暗黙のルール。レギュラー。補欠。戦力外。怪我。いじめ等々。
どのスポーツにもありそうな事ですが、それら全てを乗り越えた一握りの親子鷹のみが辿りつける甲子園という聖地。
戦いの相手は強豪校だけではありません。親友の野球部員も。
最大の敵は己自身。怪我を隠し続けていてもいつかは破綻します。航太朗も子供の頃からの肘の負担が中学時代には既に限界でした。それを憧れの大阪強豪校の監督に見抜かれます。
住み慣れた神奈川から大阪へ引っ越しを決める奈々子。息子航太朗が選んだ道は、大阪最強の高校を倒すため、大阪で名を売り始めていた高校への入学。特待生という扱いで。
右も左も分からぬ新天地で苦闘する親子。結局肘の手術をすることになり、レギュラーからベンチ外へ。奈々子の心配もよそに憑き物が落ちたように生き生きとする航太朗。
一方奈々子は父母会で辛い思いをしますが、支えあう友達もでき大阪に馴染んできます。
3年生になった航太朗は何とかベンチ入りし、大阪地区予選で宿敵の強豪校を相手に、祈る母の前で甲子園出場を決めます。
そして「俺たち、本当に甲子園に行けるんだよな」と奈々子に言う航太朗。
航太朗は甲子園でピッチャーとして予想外の大活躍。かたやアルプス席から見守る奈々子。試合後記者に囲まれ、「ありがとう」と息子は母に伝えます。
人生に浮き沈みはつきものです。必要なのかもしれません。
ひとつ確かなことは、読後は高校野球にそれ程思い入れはなくても、高校野球を観戦するたびにこみ上げてくるものがきっとあるでしょう。
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アルプス席の母
- 著者名
- 早見和真/著
- 出版社名
- 小学館
- 税込価格
- 1,870円