図書館館長なのに「借りるより買いたい本」を推すシリーズ vol. 25
日々10万冊を超える本に囲まれながら年間2,000冊以上読む図書館館長がどうしても手元におきたくて買ってしまう本とは?
「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」
TV中継もされている結婚式の宴の最中で三名の死者がでた。しかも男だけ。と犬。
そこに居合わせたのが名探偵ではなく、その一番弟子の中学生「八ッ星聯」と金貸しの中国美女「フーリン」だ。
名探偵コナンよろしく事件を推理して真相に迫っていく八ッ星。容疑者達の弁明を「その可能性はすでに考えた」と論破していくも、結局「さっぱりわかりません」と。
そして突然、作者は読者に向けて真犯人の名をあげ――。
嫌々ながらも諦めて地方の豪奢な家に嫁ぐ娘の結婚式。まるで犬神家の一族の様な家に。
その地方には古くから婚姻にまつわる奇妙な風習が根付いている。「七夜考」「嫁親詰り」等。
「七夜考」とは結婚式の一週間ほど花婿の家に仮の生活をし、花嫁は気が変われば結婚を取り止めにできる風習。「嫁親詰り」は、花嫁道中の際に近隣住民が行列の先頭を歩く父親に向って「人売り!」「ダメ親父!」「娘の了解はとったか!」など罵詈雑言はもちろんのこと物まで投げつけるものだ。
これらの風習の始まりはこの地域に伝わる伝説「カズミ様」。
昔々殿様が美しい娘カズミを見初め城に召し上げようとしたが、娘に拒まれ大恥をかき、家臣である娘の父親に命じて娘を縛り上げて城に届けさせた。娘は城内で七日七晩泣き明かした後、迷惑をかけたお詫びとして夾竹桃が見事な城下の庭園で茶席を催した。その小枝を煮た湯で茶を入れ、参加した男衆を皆殺しにした。
以後両家の血筋は途絶え、毒のある夾竹桃が城跡に生い茂った。
ここで小職は現存する婚姻等にまつわる似た風習をふと想起した。
それは『自分のあたりまえを切り崩す文化人類学入門』で紹介されているインド西部の婚姻形態と婚姻儀式だ。
「ターリー儀礼」:それは母系親族の共同集団「タラバート」で適齢期の女性が一斉に集められ三日間形式上の夫と暮らし、四日目には夫婦関係は解消され、そして――。
また同書ではアフリカのンデンブ社会の首長任命儀礼も挙げている。首長就任の際、新首長は先住民の聖職者から卑下する説教を延々と聞かされ、はては新首長に不満を持つ人々が侮辱的な言葉を一晩中投げかけ、あろうことか奴隷のように扱うのだ。
儀礼後新首長はこうした人々に復讐してはならない決まりになっているというものだ。
少々脱線したが、『聖女の毒杯』は犯人が分かった上での推理小説なら、古畑任三郎か刑事コロンボ路線かと読者に先入観を植え付けてからのどんでん返しに次ぐどんでん返し。
いったい真相は。そこはやはり名探偵登場と相場は決まっているのだが果たして――。
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聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた
- 著者名
- 井上真偽/〔著〕
- 出版社名
- 講談社
- 税込価格
- 902円
熱田図書館長 佐々木
5歳で角膜移植した際、ドクターからの「喫煙禁止」と「読書禁止!」との言葉を忠実に守り続けるも、なぜか現在図書館長。
趣味は合気道、英語学習、旅行、温泉、アニメ、韓流、カラオケ、SNS、読書?
その他テニス、スキューバ、サーフィン、水泳・・・多趣味でキリがありません。
今現在の推しアイドルは、「ILLIT」! かつては「少女時代」。
アフタヌーンティーは日本、英国など有名店を制覇中。
こだわりはスコーン。
文中で登場した作品たち
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名探偵コナンSPECIAL 1
- 著者名
- 青山剛昌/著
- 出版社名
- 小学館
- 税込価格
- 880円
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横溝正史自選集 4
- 著者名
- 横溝正史/著
- 出版社名
- 出版芸術社
- 税込価格
- 2,200円
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自分のあたりまえを切り崩す文化人類学入門
- 著者名
- 箕曲在弘/著
- 出版社名
- 大和書房
- 税込価格
- 1,980円
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古畑任三郎 1
- 著者名
- 三谷幸喜/著
- 出版社名
- 扶桑社
- 税込価格
- 533円
