
図書館館長なのに「借りるより買いたい本」を推すシリーズ ~地元作家特別編~
日々10万冊を超える本に囲まれながら年間2,000冊以上読む図書館館長がどうしても手元におきたくて買ってしまう本とは?
「そのハミングは7」
―― 春の柔らかな日差しを浴びながらそよ風が頬を撫でるような心地良さを感じつつも、ひょっとして頬を撫でたのは気まぐれに通りがかった天使だったのかも。――
そんな気持ちを279ページの本書中274ページ目で感じました。それが『そのハミングは7』を推す理由です。
舞台はアメリカ南部。主人公はハリケーンに遭い盲目になった少年。
翻訳本かと思えるほどアメリカ文化を精緻に描いています。タイトルのハミングという英語にしても「口ずさむ」という意味の単語ではなく綴りも違います。
アメリカ南部の大学に留学した経験のある私は、作者は帰国子女に違いないと想像していました。
ところが作者は熱田図書館近くに在住の作家で、この本が実質的なデビュー作。しかもアメリカには一度も行ったことがないと。
登場する食文化や小動物は私にはなじみ深いものがありますが、生活したことがなければそれほど気にすることではありません。
例えば、プレーリードッグという可愛い小動物をご存じの方は多いでしょう。ですが本書ではウッドチャック。見た目は同じようなのですが若干の違いがあります。
コーンブレッドも頻繁にでてきますが、日本人的に相当する食べ物は母が作る味噌汁やカレーライスのようなものです。
それだけではありません。
作者は盲目の主人公トビーになりきるために目隠しを数か月して日常生活を過ごし、目が見えなくなると自分の感覚はどう変化するのかということまで身を持って体験したというのです。
そうしてできあがった作品が『そのハミングは7』です。
著者がWebで本作を発表したのが2016年。角川書店から発刊されたのが2024年12月。
じわじわと心に染みてくる本作を現すに相応しい年月です。
本のあらすじ紹介などを読むと、単なる盲目の少年の成長譚と思われてしまうのが残念です。
裏表紙の帯の最後に書かれている「人は誰しも、ある意味盲目である。」という一文が的確に本書の核心を捉えています。
心に抱えた深い闇で目を覆われた人たち。少年の心も同様に。
そしてトビーたちは出会うのです。本作の「鍵」となる主要人物の「ジャン」と。
読了後は、ひょっとして辛かったあの頃自分が出会ったのは「ジャン」だったのかも、と思ってしまいます。
世界中の多くの方が「ジャン」に出会えることを祈りつつ『そのハミングは7』を推します。
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そのハミングは7
- 著者名
- 虹乃ノラン/著
- 出版社名
- KADOKAWA
- 税込価格
- 1,760円