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【バイヤーO】の現代ミステリ概論 第4回 西澤保彦(にしざわ・やすひこ)編

2021年1月20日 投稿

ミステリ好き【バイヤーO】の偏愛暴露企画のお時間です。
第四回は、日本のミステリに一ジャンルを築いた感のある、「特殊状況本格」の元祖たる作家です。
と同時に、【バイヤーO】的最愛ヒロインの生みの親でもあるのです…

「時間の反復落とし穴」!? 『七回死んだ男』という発明

西澤保彦は1995年、講談社ノベルスから『解体諸因』でデビュー。様々なバラバラ殺人を並べた連作であるデビュー作は「普通の」本格でしたが、彼のオリジナリティは、「対面した人がすべて真実を話してしまう」能力を持つ探偵を描く第二作『完全無欠の名探偵』で準備され、続くこの作品で一気に開花します。

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七回死んだ男 新装版

著者名
西澤保彦/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
858円

同じ一日が繰り返される、「時間の反復落とし穴」現象に見舞われた主人公の高校生が、その中で祖父が殺されるのをなんとか防ごうとするお話。

SF的設定をミステリに持ち込んで、その世界の中でどのような論理が展開されうるのか、またどのようなミステリ的驚きを演出できるのか、そうした興趣を中心とする「特殊状況本格」。作者がその第一人者として名を高らしめた初期代表作です。
SF的な素っ頓狂な奇想と、ストーリィのスリリングな面白さを保ちながら、あくまでミステリとしての秩序が瓦解しないように展開させるという難事を、作者のクレバーな筆力と構成力は完璧に実現しています。
久太郎の苦闘に感情移入しながら、同じように翻弄され、やがて真相が明らかになれば、紛れもない最高の本格ミステリのカタルシスが味わえます。
国内本格ミステリの、今後も読み継がれるクラシックになるべき一冊です。


【バイヤーO】的ベストオブ特殊状況!! 『人格転移の殺人』

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人格転移の殺人

著者名
西沢保彦/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
858円

突然の大地震で、ファーストフード店にいた6人が逃げ込んだ先は、人格を入れ替える実験施設だった。法則に沿って6人の人格が入れ替わり、脱出不能の隔絶された空間で連続殺人事件が起こる。犯人は誰の人格で、凶行の目的は何なのか?

…とあらすじだけ引いても、なんやそれwという素っ頓狂ぶりですが、これが私的西澤作品ベスト、国内(つって海外はあまり読まないのですなわち)ミステリオールタイムでベスト5に入る、特殊状況本格最高の精華と奉る作品です。
SF状況も機械のせいにしちゃったし、クローズド・サークルでの殺人にフォーカスしちゃったし、とにかく徹底して無駄を削いで、「人格が入れ替わる」という特殊状況下におけるロジック展開を極め抜いて到達した、唯一無二のカタルシス。前回取り上げた法月綸太郎「都市伝説パズル」と双璧をなして、私を法悦境に導いたロジック・ビューティです。気持ちいい…。

西澤マジックに翻弄されて、読後も同じ人格を保てるかは保証の限りではありませんでっしゃろ!?(転移)


国内本格最愛のヒロインと仲間たち。 「タック&タカチシリーズ」

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彼女が死んだ夜

著者名
西沢保彦/〔著〕
出版社名
幻冬舎
税込価格
712円

しかし西澤は特殊状況だけの作家ではありません。現実を生きる人間の醜さ卑しさ浅ましさ、ギリギリで理解が届いてしまう狂気や劣情、そうした暗部を、しかも多くはコメディタッチの軽やかさの中で描き出すことにかけて右に出るものはいないでしょう。「特殊状況」と「イヤミス」、昨今のミステリ業界の潮流はすべて西澤に帰するのではないかとさえ思えます。「イヤミス」…「イヤな気持ちになるミステリ」と言うには、西澤作品の佇まいはユーモラスではありますが。
そしてその手腕が十全に発揮されるのが、非特殊状況(…まわりくどいな)における代表作、「タック&タカチシリーズ」。

匠千暁(タック)、高瀬千帆(タカチ)、辺見祐輔(ボアン先輩)、羽迫由起子(ウサコ)。四国の国立大学、安槻大学で出会った四人が、大学生活とその後も続く腐れ縁(?)の中で遭遇する様々な事件が描かれるシリーズ。こうして名前を列挙しているだけでいとおしさのこみ上げる、個人的にはミステリの中で最も愛すべき友人たちです。
中でもタカチの凛とした存在感は出色のもので、男女問わず惚れずにいられないでしょう(断言)。前述したように人間の暗部がこれでもかと突きつけられるシリーズの中で、彼女の存在はまさに酒の海に鶴、です(読めば分かる)。
上ではシリーズ第一作『彼女が死んだ夜』を挙げましたが、特にもう一作挙げるとすれば『仔羊たちの聖夜』。

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仔羊たちの聖夜(イヴ)

著者名
西沢保彦/〔著〕
出版社名
幻冬舎
税込価格
754円

連続墜死事件の謎を描くミッシング・リンクもの(無関係に見える複数の事件の隠された共通項を解き明かす趣向)ですが、ある遺留品の存在理由がヤバすぎて忘れられません。
まさに怖気がはしるホワイダニット(動機の解明)、西澤保彦の本領がこれでもかと発揮されています。


神出鬼没の地方公務員。 「腕貫探偵シリーズ」

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腕貫探偵

著者名
西澤保彦/著
出版社名
実業之日本社
税込価格
660円

困った市民の前に突如として出現する、「市民サーヴィス臨時出張所」窓口。腕貫をした担当の男性職員は無口だが、市民の抱えた悩みや謎を瞬時に解決し、そして消えていく、神出鬼没の名探偵であった…。

タック&タカチシリーズと共に、非特殊状況のもう一つの代表シリーズです…まあ「突如現れ忽然と消える机と椅子と公務員」は充分特殊状況なのですが。
短編メインのシリーズで、比較的小ぶりな事件が扱われることが多いですが、ロジックの美しさやシニカルな人間描写、ユーモアやアイロニィと、西澤保彦という作家の魅力はしっかり反映されています。

「腕貫探偵登場」はアンソロジィ収録も含めて何回か読んでいますが、その度キレイな謎解きだなあと感嘆します。


特殊状況と人間心理の魔術師!! 西澤マジックの変幻自在

以上、個性のカタマリのような西澤作品を概観して参りましたが、代表作・メインシリーズ以外にも多彩な佳作がございます。

「黒西澤」の権化たる血と体液のサーガ『収穫祭』や、「白西澤」のハートウォーム炸裂『方舟は冬の国へ』、そしてなぜか(憤激)品切れが多かったので紹介できなかった「神麻嗣子の超能力事件簿」シリーズなど、いずれも知的でシニカルで、しかしユーモラスで愛らしい(『収穫祭』除く)、ユニークな作品たちです。

未読の方はぜひ上述の代表作から、西澤ミステリという「反復落とし穴」にハマってください。


※商品は各店舗でも取扱い中です。


書いた人:バイヤーO
ミステリ好きバイヤー。ビール好きでもあるためタック&タカチシリーズ『麦酒の家の冒険』も推し。
迷い込んだ無人の山荘で、そこに冷蔵庫のビール、ジョッキだけが残されてある謎を推理する呑んだくれミステリです。
作中ではエビスでしたが、私は黒ラベル派です。

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麦酒の家の冒険

著者名
西沢保彦/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
792円

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