図書館館長なのに「借りるより買いたい本」を推すシリーズ vol. 27
日々10万冊を超える本に囲まれながら年間2,000冊以上読む図書館館長がどうしても手元におきたくて買ってしまう本とは?
「まず良識をみじん切りにします」
良識?その正体は何だろう。
みんなと同じ?みんなとは誰?
日本人なら誰もが味わったことがある、みんなと同じ行動や考え。異なることへの侮蔑や偏見。仲間外れや虐め。一般的に良識とよばれるある種の呪い。
この本は、そんな良識に対するアンチテーゼであると同時に、読みながらその皮肉に失笑してしまう短編5作構成。小職のお気に入りは、「行列のできるクロワッサン」と「完全なる命名」だ。
行列のできる店。テレビやネットでも毎日のように紹介されているが、ここでは新しくオープンしたクロワッサンが売りのパン屋。
ママ友の集まりで話題になり、主婦の絵美は食べてみたいと思うのだが、先に食べたママ友から「食べた人しかあのクロワッサンの味は・・・」と言われ、むきになって絶対に行列に並んで買うものかと決意する。
が、街中で誰もがその店のロゴバッグを持ち歩くようになると、子供や夫からもみなと同じように食べてみたいとせっつかれ、他のエコバッグではスーパーでさえ憚られるほどに。
そして意を決してついに行列に並ぶのだが、なんとその行列の長さは東京吉祥寺の店から三重県四日市市まで!
最後尾に並んだ主婦絵美は果たしてクロワッサンを買えるのか。 ―――くだらねぇ。
生まれてくる子供に命名するのは一大行事だ。
良識ある親ならば子の人生を左右するかもしれない名前をどうするか大いに悩むところだ。
なぜこの短編が小職のお気に入りかって?私の名前は学校の先生方はもちろんのこと祖母すら他界するまで読み間違えていた。
中二になった私は父に命名の由来を尋ねた。
父は誇らしげに「天皇陛下から一文字いただいた」と。昭和天皇の名から。
即座に私は父に言い放った。
「漢字が間違っている!」そうなのだ。父は役所でいざ次男の私の名前を書く際に漢字を間違えたのだ。しかし父は、「いや、高名な占い師に・・・」と言い訳を。
「父さん、知っているかい? 一生のうち人が接点を持つことになる人間の数はおよそ三万人だ。僕はこれから三万回名前を読み間違えられる運命にあるんだ。気まずい時間が流れ、訂正したりするやり取りが毎回五分行われるとしたら、合計二千五百時間、百四日間だ。
僕は人生の百日以上を意味のない空虚な説明のためにしなければならない。いいかい父さん、僕をこんな状態にしたのは・・・」と、難解な命名をされたせいでひきこもりになった息子が本書で。―――全くもって同感である。
著者のヒット作『六人の嘘つきな大学生』『家族解散まで千キロメートル』や、コミック『ショーハショーテン』もなかなかいけるので、シニカルな浅倉ワールドを是非ご堪能ください。
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まず良識をみじん切りにします
- 著者名
- 浅倉秋成/著
- 出版社名
- 光文社
- 税込価格
- 1,760円
熱田図書館長 佐々木
5歳で角膜移植した際、ドクターからの「喫煙禁止」と「読書禁止!」との言葉を忠実に守り続けるも、なぜか現在図書館長。
趣味は合気道、英語学習、旅行、温泉、アニメ、韓流、カラオケ、SNS、読書?
その他テニス、スキューバ、サーフィン、水泳・・・多趣味でキリがありません。
今現在の推しアイドルは、「ILLIT」! かつては「少女時代」。
アフタヌーンティーは日本、英国など有名店を制覇中。
こだわりはスコーン。
文中で登場した作品たち
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六人の嘘つきな大学生
- 著者名
- 浅倉秋成/著
- 出版社名
- KADOKAWA
- 税込価格
- 1,760円
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家族解散まで千キロメートル
- 著者名
- 浅倉秋成/著
- 出版社名
- KADOKAWA
- 税込価格
- 1,870円
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ショーハショーテン! 1
- 著者名
- 浅倉秋成/原作 小畑健/漫画
- 出版社名
- 集英社
- 税込価格
- 528円
