
※R15作品です。15歳未満の方はご遠慮ください
第二話………謎の声は幻の助け舟
ある日の休み時間。突然、聞き覚えはあるが名前の知らない人の声が聞こえた。幼さの残る、同い年の男子のような声。
「最初からクラスのみんなでお前をはめようとしてたんだよ」
突然の声にビクッとしたサユミは思わず「そんなことない!」と大きな声で言ってしまった。
クラスメイトはそんなサユミを怪訝そうな顔で見る。
* * *
サユミは逃げるようにトイレに駆け込み、個室にこもった。
(急に聞こえたあの声は何だろう)
そう疑問に思っていると
「みんなお前のことを嫌ってるんだから、逃げちゃえばいいんだよ」
「革命という大きな奇跡でも起こせよ」
だんだん声は鮮明に聞こえるようになり、言葉もエスカレートしていく。
サユミは声を上げずに心の中で思った。
「あなたは誰?何で私にそんなこと言うの?」
すると声の主は答えた。
「俺が誰かなんて今はどうでもいい。それより、あの女のことをいつまでも親友だと思い込んでるお前に提案してるんだよ」
「親友だとは……今は思えない…」
そしてサユミは涙をこぼしながら心の中でこう叫んだ。
「だけど!今までの思い出をニセモノだと思いたくない!」
「ニセモノじゃないなら何なのさ。どうせ、思い出は死んだんだ。もう、現実を見ろ」
* * *
サユミはハッとした。涙も止まり、天井から聞こえていたチャイムの音も生徒の声も音も聞こえなくなって、目の前が真っ白になった。
言葉が見つからない。
(あれが全部嘘だったなんて)
そんな風に思いたくないけど、それが事実。
そうわかった瞬間、サユミはトイレを飛び出し教室に戻ってカバンを持って学校を抜け出した。
クラスメイトの顔なんて見なかった。
もう生きているのが嫌になって死にたくなったサユミはこのまま失踪しようと決意して、自宅とは反対方向の国道の歩道を走った。
郊外の高校のため周りには民家しかなかった。
無我夢中で走っていたら息切れした。
相変わらず形のない声はサユミに篠突く雨のように思いを強く強く刺すけど、サユミには言い返す気力がなかった。
ここがどこか分からないほど知らない町まで来てしまった。
学校から抜け出して国道の脇の歩道をはじめは全速力で走った。息切れして疲れたらボーっと歩いてきた。
国道は今も続いていて走り出したとき、ひっきりなしにサユミの横を通り過ぎた車は現在では十分に一台か二台ほどになった。
* * *
もう、悲しみだけがサユミをオブラートのように包み込む。
左の国道とは反対側の右側の野原には花が咲いて、その鮮やかなピンク色の花たちはサユミを出迎えているようだ。
視界を埋め尽くすほどの数多くの花たちを見てサユミは思わず息を呑んだ。
花の中心の盛り上がった部分が剣山を思わせるようなガーベラに似た鮮やかなピンク色の花弁の花。
スマホで写真を撮って調べると『エキナセア』と出てきた。説明を読むと花言葉に目を見開いた。『あなたの痛みを癒します』と表記してある。
このエキナセアの花弁の鮮やかさを見つめながらサユミの目から涙が止まらなかった。
サユミは持っていたコダックのインスタントカメラで写真を撮った。
このエキナセアの花がサユミの心の写真に鮮やかに咲き誇っていることを花言葉を見て浮き彫りになった。だからこそ、お守りとしてこの花を大好きな写真としてそばに置いておきたかった。
謎の声が言っていた『革命』という言葉がサユミの頭の中に引っかかっていた。
サユミは謎の声にこう尋ねた。
「あなたが誰かまだ分からないけど、あなたは私に革命を起こせると思う?」
謎の声は「イエス」と答えた。