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【バイヤーO】の現代ミステリ概論 第8回 メフィスト賞編(下)

2021年3月17日 投稿

第八回は前回に引き続き、メフィスト賞クロニクルです。
概要等、前回記事ご参照くださいませ。

では早速、二人の風雲児から…


作家名がそのままジャンル。 舞城王太郎と西尾維新の異能

第19回受賞・舞城王太郎(まいじょう・おうたろう)『煙か土か食い物』と第23回受賞・西尾維新(にしお・いしん)『クビキリサイクル』。
ミステリの枠内にとどまらない異能の代表格がこの二人。

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煙か土か食い物

著者名
舞城王太郎/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
607円

腕利きの救命外科医・奈津川四郎に凶報が届く。連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろが?ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!

…という、謎のテンションの梗概が大人しく感じられるくらい、殺伐とした世界観と他に類を見ない文体(文圧、ってタームが流行りましたね)で衝撃を与えたデビュー作。
この作品からして本格ミステリをパロディ化しながらミステリ好きを翻弄してきますが、その活躍は早くからミステリの枠に収まらず、世界観と文体を先鋭化させながらジャンルを横断していきます。
『阿修羅ガール』で三島由紀夫賞受賞、芥川賞候補も複数回など、メインは純文学のフィールドになっていますが、そこでもその狂った世界と文圧で、彼は永遠の異端児です。
しかし個人的には、世界の乱脈の中で、主人公の姿勢の正しさに目を開かれたり、息を呑むような美しい描写(『ディスコ探偵水曜日』のムンバイの蛙!)があったり、文学的王道そのものの感動があるのが舞城作品の何よりの魅力ですね。
『煙か土か~』なら、やっぱ四郎が手当たり次第に手術する場面かな。かっけーっす。

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クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い

著者名
西尾維新/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
968円

絶海の孤島で展開する密室と首なし死体の連鎖を描く、「戯言シリーズ」の第一作。

境界横断、舞城が純文学なら、西尾維新はライトノベル。デビュー以降、異常な創作ペースで次々と作品発表しシリーズ化、特に「化物語」シリーズが斯界に与えた影響は特大でしょう。
私個人としてはあまりいい読者ではなく、全著作の十分の一も読めていないように思いますが、中で印象深いのは第二作『クビシメロマンチスト』ですね。葵井巫女子、忘れ難いヒロインです。

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クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識

著者名
西尾維新/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
913円

それぞれの「青春文学としてのミステリ」。 辻村深月と古野まほろ

第31回受賞・辻村深月(つじむら・みづき)『冷たい校舎の時は止まる』と第35回受賞・古野(ふるの)まほろ『天帝のはしたなき果実』。
まったく作風の異なる二作です…共通点は高校生が主人公というだけかも。しかしその作風の違いが、「青春文学としてのミステリ」の可能性、懐の深さを示しているように思います。

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冷たい校舎の時は止まる 上

著者名
辻村深月/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
1045円

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冷たい校舎の時は止まる 下

著者名
辻村深月/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
935円

ある雪の日、男女8人の高校生が学校に閉じこめられた。開かない扉、5時53分で止った時計。この現象を解明するうち、8人は2ヵ月前のある事件を思い出す…。

受賞歴多数、メディア化多数の言わずと知れた人気作家も、この賞から世に出ました。ホラー/ミステリとしてスリリングながら世界観はあくまでノーブル、丹念な人物描写を読ませながら、周到に大仕掛けを整える…主な作風はこの受賞作と、続く初期作品で既に確立しています。
あまりに整えられた人物造形が鼻につく場面がないわけではないですが、読み終われば、そのすべてが好ましいものに思えてくる辻村マジックでは、特に第二作『子どもたちは夜と遊ぶ』を偏愛しています。

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子どもたちは夜と遊ぶ 上

著者名
辻村深月/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
880円

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子どもたちは夜と遊ぶ 下

著者名
辻村深月/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
880円

そしてもう一人、オリジナリティ溢れる青春ミステリでデビューしたのが古野まほろ。

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天帝のはしたなき果実

著者名
古野まほろ/〔著〕
出版社名
幻冬舎
税込価格
1089円

勁草館高校の吹奏楽部に所属する古野まほろは、コンテストでの優勝を目指し日夜猛練習に励んでいた。そんな中、学園の謎を追っていた級友が斬首死体となって発見される。犯人は誰か?吹奏楽部のメンバーによる壮絶な推理合戦の幕が上がる!

辻村深月のノーブルさとは対照的に、どこまでもエクストリームなのが古野まほろの作品世界。この作品もプロローグだけで、独特すぎる文体に拒否反応を起こす人もいるかもしれません。
第二次大戦が収束していない帝政日本という設定、奇矯な登場人物たち、ロジックへの偏執的な拘泥…すべてが破天荒に破格の、まさに異形の青春ミステリですが、「青春ミステリ」という特殊な文学形態においては、そうしたエクストリームでしか捉えられない本質的ななにものかがあって、この作品はそれを見事に捉えていると感じられるのです。
警察官僚としてのキャリアを生かした警察小説や教養新書も含め、作者はその後も旺盛な執筆を続けていますが、個人的な偏愛はやはり「天帝シリーズ」第二作『天帝のつかわせる御矢』。

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天帝のつかわせる御矢

著者名
古野まほろ/〔著〕
出版社名
幻冬舎
税込価格
1005円

戦火の満州から、樺太、北海道、本州、対馬と環状をなす「環大東亜特別急行」の超豪華寝台列車で起きる連続殺人、という絢爛すぎる設定に、興奮しないミステリ読みはいないでしょう。ロジックも精細を極め、テンションアガりっぱなしのアッパー系本格です。


本格新世代の星!! 早坂吝と井上真偽

最後に、新本格第三世代としてジャンルを牽引する俊英をご紹介。
第50回受賞・早坂吝(はやさか・やぶさか)『○○○○○○○○殺人事件』と第51回受賞・井上真偽(いのうえ・まぎ)『恋と禁忌の述語論理(プレディケット)』です。

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○○○○○○○○殺人事件

著者名
早坂吝/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
726円

孤島での連続殺人が、タイトル…○○○○○○○○にあてはまるなにものか…当ての趣向と共に、驚天動地の展開を見せる問題作。自己卑下して言いますが濫読家なので、ミステリに限らず読んだハシから内容を忘れていく私でも、この作品の真相は鮮明におぼえています。
あまりにキレイに盲点をつかれ、そして提示される「画」の見事さにニヤニヤが止まりませんでした。
その後の作品も、京大ミス研出身らしいクレバーさと、らしからぬバカバカしさ(下ネタ含む)を兼備した逸品ぞろいです。
ぜひ皆様も、○○名探偵・上木らいちと出会ってください。

そしてもう一人、新本格第三世代の四天王と(勝手に)数えているのが井上真偽。

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恋と禁忌の述語論理(プレディケット)

著者名
井上真偽/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
946円

「数理論理学」を操る美貌の天才学者・硯さんが、持ち込まれる謎とそれぞれ個性豊かな名探偵による推理を次から次にひっくり返す、前代未聞の数理論理学ミステリ。

…と紹介すると難しそうなイメージの作品ですが、ラノベ的なノリもあって、「とっつきやすい本格派」です。
ここでは「数理論理学」というガジェットに先鋭化していますが、井上真偽という作家の最大の魅力はロジックへの徹底的な拘泥。
それが最もラディカルなのが、『恋と禁忌の~』にも登場する上苙丞を探偵役とする『その可能性はすでに考えた』。

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その可能性はすでに考えた

著者名
井上真偽/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
836円

あるカルト教団のコミューンで起きた殺人の謎が描かれる長編ですが、これは他の本格ミステリとはまったく異なる、独特のアプローチがなされた作品です。
メインの謎となる不可能状況での殺人は神の奇蹟としか思えないものですが、とある理由から「奇蹟の存在を証明する」ことを存在意義として負っている探偵・上苙は、「神の奇蹟としか思えない状況を解明する」のではなく、「奇蹟ではあり得ない可能性をすべて潰す」こと、つまり奇蹟が人為(≒トリック)として行われ得るパターンをしらみつぶしにし、それをロジックによって否定し続ける、という恐ろしい業を自らに課します。すべての可能性が考え尽くされてその事象が人為では不可能となった時、奇蹟の存在が証明されるというわけです。
一つの事件に対し、いくつもの推理・解決が提出され、発展していくパターンを「多重解決」といい、昨今の本格ミステリにおけるトレンドの一つになっていますが、この作品はその型を、通常の本格ミステリとは逆の方向から照射し、そして途中で行われるある転換…多重解決にはつきものの「捨て推理」をめぐって…により、多重解決の極北に座しています。
本格ミステリを読み始めて四半世紀になりますが、マジでこんなん読んだことねえ…と圧倒&感嘆し続けることになった革命的傑作、シリーズ第二作『聖女の毒杯』と併せて、論理の魔境に惑いましょう。

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聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた

著者名
井上真偽/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
836円

書いた人:バイヤーO
ミステリ好きバイヤー。
……として連載記事を書いておりましたが、人事異動に伴い現職を離れるため、本連載はここでいったん更新停止とさせていただきます。読んでいただいた皆様に感謝いたします。
本格ミステリの隆盛を祈念しつつ。ありがとうございました。

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