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【地元作家コラム:青山美智子 先生】~私と地元~ 「愛知県出身です」と、胸を張って言いたい理由

2021年1月27日 投稿

「愛知県出身です」と、胸を張って言いたい理由

インタビューを受けたときなど、原稿チェックの際ちょっと目をこらすのがプロフィールだ。たまに「愛知県生まれ」と書かれていることがあり、「出身」と訂正していただく。嘘はいけない。そしてそれは、私のこだわりでもある。

母親の実家がある埼玉県の病院で生まれた。生まれただけで、退院したあとは千葉県をぐるぐる転居しながら育った。
そして愛知県に引っ越したのは中学1年生の3学期だった。以来、大学卒業まで、私は瀬戸市という小さな町で過ごした。

転校生だった。自分から積極的にクラスの輪に入っていくことができなくて、休み時間にぽつんとひとりになることがあった。そんなとき、本を持っていると具合がよかった。読書をしていればいいのだ。最初は家にあるものを鞄に入れていたが、そのうち、おこづかいで買えて持ち運びもしやすい文庫に手を伸ばすようになった。
運命の出会いはそこだった気がする。普段は食指が動かないジャンルなのに、なぜか表紙に惹かれて手に取ったのが氷室冴子さんの『シンデレラ迷宮』だった。それを読んだ衝撃から私はまねをして自分も小説を書き始め、14歳のとき、作家になろうと決めた。そしてあの本に出会わせてくれたのはまさに、三洋堂書店さんだった。

文藝年鑑に載っている作家のプロフィールもほとんどが「〇〇生まれ」だ。私が例外的に「出身」としていることに、埼玉に対しても愛知に対してもいささかの後ろめたさがあったのは否めない。しかも22歳で家を出たので、愛知に住んでいたのはわずか9年だ。
だけど私は、どう考えても自分は「愛知県出身」だと思っている。
私は愛知で小説に魅了され、ノートにシャープペンシルで物語を書き綴り、やっとできた友達に読んでもらっていた。部活、恋愛、受験、そして大人になっていく段階での初めてのアレコレはすべて愛知だった。ものかきとしての地盤を作ってもらったからこそ、私はそのあと、いろんな場所を渡り歩きながら書き続けてこられたのだと思う。

だから、三洋堂書店さんが「地元作家」として私を応援してくださっているのを知ったときは、本当に本当に嬉しかった。
身が出ると書いて出身。青山美智子という身は、愛知県瀬戸市から出たのだ。そのことを三洋堂書店さんに受け入れてもらえた気がして、なんというか、相思相愛みたいな幸せな気持ちになった。

最新刊『お探し物は図書室まで』のテーマは、「本」と「仕事」である。
町の公共施設の中にある小さな図書室。思いどおりにいかない日々に悩む人々が、ふらりと訪れる。そこには一風変わった司書さんがいて、彼女はこう言うのだ。

「何をお探し?」

司書の小町さんがレファレンスしてくれるのは、予想外の選書と、意味を理解しがたい「付録」。5人の登場人物がそれぞれに、自分だけの「探し物」を見つけていく連作短編集となっている。

ある章で、主人公ではなくチョイ役で作家志望の男性が出てくる。そのエピソードを、「青山さんの実体験ですか」と訊かれることがある。最初に想定したときにはあまり考えていなかったけど、書いているうちにだいぶ実体験が混じった。彼の持っている「最強に信じられるお守り」を私にくれた人もまた、愛知にいる。
私がこの作品を通して描きたかったのは、「本」というよりもすべての「言葉」が持つ力なのかもしれないなと、今になって思う。

ところで、以前は東京の人に瀬戸市の話をするときに「せとものの町で……」と説明することが多かったのだが、最近は相手のほうから「ああ、将棋の藤井聡太くんの!」と言われるようになった。自分とはまったく関係ないのに、誇らしい気分になるから不思議だ。やはり同郷と知るとすごく応援したくなるし、活躍する姿を見るのが嬉しい。私の中に流れる地元愛を、強く感じる瞬間でもある。
ゆるされることなら、私はこれからもずっと愛知県出身と明言し続けたい。ノートにシャープペンシルを走らせていた中学生の私ごとその5文字の中に記されているようで、また少し、頑張れる気がするのだ。

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お探し物は図書室まで

著者名
青山美智子/著
出版社名
ポプラ社
税込価格
1,760円

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