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【地元作家インタビュー:青山美智子 先生】『月曜日の抹茶カフェ』

2021年11月10日 投稿

『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)が2021年本屋大賞で第2位にランクイン、三洋堂書店が地元作家様として応援させていただいている愛知県出身の作家、青山美智子先生。
デビュー作『木曜日にはココアを』の続編『月曜日の抹茶カフェ』(いずれも宝島社)が発売されました。今回は青山美智子先生に、シリーズへの思いや制作の裏話、影響を受けた本などについてうかがいました。

写真提供:宝島社

青山美智子(あおやまみちこ)先生プロフィール

1970年生まれ。愛知県出身。
大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務した後、雑誌編集者を経て執筆活動に入り、2017年『木曜日にはココアを』でデビュー。主な著書に『鎌倉うずまき案内所』『猫のお告げは樹の下で』(いずれも宝島社)があるほか、『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)で2021年本屋大賞第2位を獲得。

最新刊『赤と青とエスキース』(PHP研究所)が11月10日に発売予定。

公式Twitter:@michicoming

「マーブルカフェ」シリーズについて

マスターにモデルはいますか?

マスターに決まったモデルっていうのはいうのはいなくて、「こんな人がいてくれたらいいな」という願望で書いているんです。
ただ、自分の中でビジュアルで「芸能人だったらこの方かな?」というイメージはあります。私はその人が喋っているのを想像しながら書いています。

ただ人それぞれマスターのイメージは違うと思います。読者の方の想像がその人にとってのマスターですので、ご想像にお任せします。

マーブル・カフェは、どこかのお店をイメージされたのですか?

ネット連載時、書き始めたときはイメージはありませんでした。書籍化のタイミングで、歩いて2分ぐらいのところににカフェが出来たんです。ここで改稿作業できるなと思って通っていました。

そこがすっごくマーブルカフェっぽくって・・・
ランプなどのインテリアとか、ぼっくりした木のテーブルなど、ネット連載の時にはなかった表現なんです。

ちなみにカフェ周辺も、桜並木があってマーブルカフェに設定が近いんです。気に入っていたカフェなので、何人か友人をお連れしました。「聖地巡りだね」と言われましたね。
でも、昨今の状況でそのカフェは閉店してしまいました・・・。

ちなみに『猫のお告げは樹の下で』の聖地巡りツアーは出来るんですけどね。『猫のお告げは樹の下で』はほぼ戸塚が舞台になっているので神社とかプラモデル屋さんとか・・・川もそう、舞台になっている場所が多いんです。

一番お気に入りの登場人物は誰ですか?

どの子も可愛いので、1番は決められないです・・・けどミクジは特別ですね。例えば神社に行った時とか、公園に行く時とか、「ミクジいるかな?」ってちょっと探してみたりして。

――――猫が現れる時ってなにか特別なことが起こるんですね。

読者からミクジ目撃情報をいただくこともあって、例えば

「雨の日に濡れていたハチワレの子猫がいたので、保護しましてミクジって名前つけて飼ってます」

と報告いただいたこともあって、本当にミクジはいるんだなと思っています。

私にとって『猫のお告げは樹の下で』は本当の意味での初めて書けた小説だと思っているので、ミクジは特別な存在なんです。

――――ちなみに『月曜日の抹茶カフェ』の中ではお気に入りの登場人物はいますか?

皆好きなんですけど、たっくんはお気に入りです。たっくんは前作の『木曜日にはココアを』から出てきて、『鎌倉うずまき案内所』にも出ていますし、『月曜日の抹茶カフェ』で3回目ですね。

たっくんが今後、どんな青年になっていくのか見守りたいですね。
メインじゃない場合でも、誰かの友達などで出てくるかもしれません。気づく人は気づくという感じで。

また、「うちの子たっくん情報」というのを読者さんからいただくこともあります。うちの子もたっくんです!という方が何人も・・・すごくありがたいです。

『月曜日の抹茶カフェ』の中で実体験に基づいているものはありますか?

4章、卯月の「天窓から降る雨」の舞台、両国の温泉施設っていうのは本当にある場所なんです。

私の大好きなお友達と行ったときに本当にひょうたん型の天窓が開いていて、そこからぱらぱらと雨が降ってきて、その光景がとても素敵で、いつか書こうと心に留めていたシーンだったんです。

一緒に行った友達は私にとっての光都のような存在で、「天窓から降る雨」の中に「人間だけ、なんで服着ているのか。おっぱい出したまま暮らしてる民族もいる。周囲が隠すから恥ずかしくなって、恥ずかしいから隠してっていうループだよね」という話が出てくるんですけど、あれは友達と話した実話です。

光都についてもう少し話すと、4章の光都は私の友達をモデルにしているんですけど、5章「拍子木を鳴らして」でメインになった光都は少し違うんです。私が彼女になりきることが出来なくて、5章の光都は私自身が濃く入っています。

実体験ということだと4章が1番ですね。他は人から聞いた話だったりを基にしています。京都を書くことになって、私京都は好きなんですけど詳しいわけではないので京都に住む友人に話を聞いたり、担当(編集者)さんの学生時代の話を聞いたりだとか、たくさんの方から聞いたエッセンスが入っています。

たくさんのキャラクターを描かれていますが、そのひとりひとりの心情に寄り添うための人間観察はどのようにやっていらっしゃるのですか?

人間観察しよう!と思ってやってはいなくって、私は小さい時から妄想癖が強いんです。人を見ていると、ぼんやりその人のことを妄想する、変な癖があるんです。

電車で向かい側に座っている方を見ていて「あの人は今日何を食べたのかな」「あのバッグはどこで買ったのかな」「あの人は行きたくない場所に行かなくてはいけないのかも」とかそういうのがモワモワと浮かんでくるんです。そういう感じで観察しています。

「心情に寄り添う」ような大層なことはしていなくって、ただ妄想で生きている感じなんです。
私にとって「この世界に78億人の人がいる」ってことが感動的で、全員違うってことにびっくりするんです。
そのひとりひとりにドラマがあるっていうのが興奮するんですよ。

――――特別な人を描くのではなく、ひとりひとりに向き合ってその人の人生の背景を創造されて描くのが青山先生らしいですね

普通の人っていないなって私は思っていて、みんな違うなって思っています。舞台を例にするとしたらスポットライトを浴びて演じている女優さんや俳優さんではなく、裏方で走っている方だったりにすごく興味があるんです。
「どうやってここまでたどり着いたんだろう」とか「ここからどうしたいんだろう」とか・・・気になってしまします。そちら側にいる方たちの方が、圧倒的に魅力的に感じるんですよ。

もし実写化されるとしたら、演じてほしい方はいらっしゃいますか?

私の頭の中ではマスターだけでなく、登場人物全員に役者さんのイメージがあります。プロットを編集さんに渡すときに、登場人物の表にその役者さんの名前を書いています。なので、実は私の中では全員当て書きなんですよ。

先述の通り、自分の中で役者さんは想像するんですけど、それはあくまでも私の中のイメージであって・・・本って読んだ人のものなので読者さんの想像する方で読んでほしい。

例えば実写化されたら、担当されたプロデューサーさんや監督さんとかのイメージで作るでしょうし、私の想像を超えたところで新しいものが生まれるとしたら、そこには非常に興味があります。

もし実写化の話が来たら、ひとつこれだけはリクエストしようって思っていることは、その作品の担当編集さんと自分がエキストラで出るっていうのはやりたい!って思っています。セリフはなしで・・・例えば主人公の座ってる席の隣の隣で喋っているとかね。巻き込まれた編集担当さんは大変ですけどね。

先生の作品は田中達也さんが手がける表紙も素敵です。表紙にまつわるエピソードがあれば教えてください

私は表紙を褒められることが、小説自体を褒められることと同じぐらい嬉しいんです。
田中達也さんが今回の作品も含めて過去5作品、手がけてくださっています。

制作する際は、私自身が「こうしてください」とイメージをお伝えすることはないです。
先述の登場人物全員に芸能人を当てた表と原稿を、編集さんを通じて田中達也さんにお送りして作ってもらっています。なので、表紙に並んでいるフィギュアの髪型が「あの俳優さんのそのままやん!」ということがあって面白いんです。そこは私だけの特権ですね。

私は田中さんに全幅の信頼を置いています。実は田中さんが作られたものを見て影響を受けて、イメージが膨らんで原稿を直すということもあるんです。
『木曜日にはココアを』もそのひとつで、田中さんの表紙を見たときに川が見えたんです。なので川沿いの桜並木の要素を入れました。もともとは桜並木はなかったんですよ。

なので私は、作品は田中達也さんとの合作だと勝手に思っています。

――――田中達也さん以外が担当された作品だとどうでしょうか

『お探し物は図書室まで』は結構、私のこだわりが入っています。撮影にも立ち会いましたし、羊毛フェルト作家さんはどなたにお願いするかとか、タイトルの配置なども納得がいくまで話し合いました。

また、11月に発売される『赤と青とエスキース』は小物選びや置き方などにも参加させていただきました。こだわっているので期待していてください!

――――装丁には大変こだわっていらっしゃるんですね。

そうですね。私は、装丁をとても大事にしています。制作に関わる方は皆さんそこを汲み取ってくださるので本当に嬉しいです。やっぱり、手元に置いておきたい本にしたいっていう思いがあるんですね。

『猫のお告げは樹の下で』の表紙の中で1枚本物のタラヨウの葉っぱが使われているんです。田中達也さんはこの1枚のタラヨウの葉を手に入れるために、木ごと買おうとしたというお話がありまして・・・。結局、事務所に入らないということで購入は断念したそうなんですが、夏の暑い時期に編集の方が神社や植物園、公園などと駆けずり回って探してくださったんです。
皆さんで私の物語を愛してくださっているんだなと感じ、思い出すとつい泣いてしまうほどです。
書くということは孤独な作業だけど、「本を出す」ということは一人では出来ないんです。その点において私は恵まれているなと感じています。

編集さん、田中さん、ブックデザイナーさん、書店員さんなど、みんなで作ってみんなで世に出せて、すごく幸せです。

――――我々書店も、先生の作品を読者に届けるお手伝いが出来て、光栄です。

三洋堂書店さんは本屋大賞の前から応援してくださっていたことが私の中ではすごく大きいんです。
前から応援してくださっていた方々が結果に喜んでくださったことを聞いて、順位がどうということではなく「恩返し出来て嬉しくてこれからも頑張ろう」と思えました。

青山美智子先生自身のことについて

おすすめの抹茶との付き合い方や抹茶にまつわるエピソードがあれば教えてください

『月曜日の抹茶カフェ』を書くと決まった後に京都の老舗のお茶屋さんに取材に行きました。
本当に1章の美保ちゃんと同じようにメニューを見て「高いほうが美味しいに決まってる」と思い、濃茶を頼んで「ぶへっ」ってなりました。これ、実話だったんですよ。

本当に「苦いとかじゃない、未知の味」と思ったんです。その時にお菓子を先に食べるんだと教わって・・・本当に取材って大事だなって思いました。

最近読んで面白かった本は何ですか?

『ルーザーズ』(双葉社)という漫画です!「漫画アクション」がどういう風に出来上がって、モンキーパンチさんがどうやって有名漫画家になっていったのか、が実話をベースに書かれているんです。

これほんっっとうに面白いんです!

私が描いていたモンキーパンチさんの印象と全然違っていて、ペンネームを編集者さんが勝手に決めたというエピソードとか「エー!」と驚きです!結果的にモンキーパンチで売れたわけで、編集者さんってすごいなって思います。

私、下剋上ものがすごく好きなんですね。モンキーパンチさんも最初トイレ掃除をやっている冴えない社員って感じなんです。ただ漫画がすごく好きで好きで・・・そんな方がどうやって大成するのか、関係者が漫画にかける情熱を教えてくれる本です。

青山さんにとって忘れられない特別な本はありますか?

忘れられない本、沢山あるんですが『ふしぎなえ』ですね。
幼少時代に触れた本でインパクトがあった本はたくさんあるんですが、どれか1冊を選ぶとしたらこの1冊です。

文字が全くなくて、タイトルの通り「ふしぎな絵」で「壁かな?」と思ったら床だったり、階段を上がっていると思ったら下にいたり・・・小さいころに読んで「どうなってんだ世界!?」と感じて印象的でした。

物心がついてないぐらいで「当たり前と思っていることが当たり前じゃない」と漠然と思っていました。

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ふしぎなえ

著者名
安野光雅/さく
出版社名
福音館書店
税込価格
1,100円

この絵本、ずーっと見ていられるんです。見れば見るほど見ちゃうんです。私の、本が好き、本という物体が好きというのはここから来ていると思います。装丁にこだわっているのも、物としての美しさだったり面白さだったりがあるからなんだと思うんです。

それとこの絵本はね、硬さや厚さも完璧なんですよ!これ以上厚いと重くて見てられないですから。開くたびに違う捉え方が出来るので、いろいろ考えちゃいますね。本当にいい本です。未来に受け継ぎたい本ですね。

中高生時代にはまった本、作家さんはいらっしゃいますか?

いろんなところで言っているんですが、氷室冴子さんの『シンデレラ迷宮』です。これが私が小説家になろうと思ったきっかけの本です。
以前コラムでも書いたんですが・・・この本は、三洋堂書店さんで買いました。三洋堂書店のおかげで作家になったんですよ。

家の近くに小さな三洋堂書店があって、表紙の後ろを向いている女の子に惹かれて・・・いわゆるジャケ買いですね。主人公の利根ちゃんを自分の友達と思うほど、作品の世界にハマっていました。その後、氷室冴子さんのコバルト文庫を集めて真似して小説を書き始めたんです。
私が心惹かれた表紙のイラストを描かれているのは漫画家の藤田和子さんという方で、デビュー前の氷室冴子さんファンの集いで「おかげさまで作家になることが出来ました」とお礼を伝えることが出来ました。

今の中高生にお勧めの本があれば教えて下さい!

私が言うまでもないほど有名だと思うんですけど・・・あえて言います。
今、中高生読んでほしいとおすすめするのは『ブルーピリオド』(講談社)!これは本当にお勧めです!

ちょうど息子が高校3年生で、大人の私もこれだけ感動するので、今の中高生はリアルタイムでこれを読めるってすごい幸せなことなのでぜひとも勧めたいです。
アニメも始まって知名度も上がっていて私が勧める必要もないんですけど勧めます、もう最高!

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ブルーピリオド 1

著者名
山口つばさ/著
出版社名
講談社
税込価格
748円

もう1冊、こちらは割と女子向けです。太宰治さんの『女生徒』内容はそのままなんですけど、イラストがね可愛いんです。書体とか、ページごとに色も違うんです。普通に文章だけで読むよりも面白いんです。

1ページ1ページの文章の切り取り方が上手くて、色の合わせ方もいい。編集者さんが素晴らしいんだと思います。
こシリーズで様々な本が出ていますが、中高生にはこの『女生徒』をお勧めしたいです。

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女生徒

著者名
太宰治/著 今井キラ/絵
出版社名
立東舎
税込価格
1,980円

執筆中はなにか音楽を聴かれますか?

書いている時は無音です。書く前に自分を高めるために聴くってことはよくします。YOASOBIさんをよく聴きます。作品のテイストによって聴く音楽を変えたりはします。
音楽とは違うんですが、チョコレートを刻む音っていうのがあって無心になれるので好きです。心のすすを掃うときにお勧めです。

――――ほかに執筆の合間の気分転換ってどういうことをされているんでしょうか

塗り絵をします、すごく細かいやつ。色鉛筆も160色とか揃えています。よくある自律神経を整える塗り絵って効果があるんだと思っています。でも、どの色を使おうか考えるよりも、細かい図案を一色でただ無心で塗るっていうほうが心が落ち着くかも。写経に似た感じといいますか何も考えない状態を作る、マインドフルネスですね。

愛知県で一番思い出深い場所はありますか?

――――三洋堂書店は東海圏に多く出店していますので、ぜひ最後にお聞きしたいです。

ナガシマスパーランドやリトルワールドなどの観光地も思い出がありますが、やっぱり瀬戸が思い出深いですね。瀬戸電の瀬戸川挟んで向かいのユニー(現在はアピタ)の中のフードコートの・・・スガキヤ!あのスガキヤが私の青春でした。

中学生の時に学校帰りに寄るのが定番でした。クリームぜんざいやラーメンが安くて、そこが寄合の場所でした。スガキヤに青春がありました。スガキヤは愛知県に帰った時しか行けない場所であってほしいですね。
あと、思い出の場所といえば長久手の青少年公園、今の愛・地球博記念公園です。高校のマラソン大会が開かれた場所なんです。

――――青山先生ありがとうございました。ぜひ愛知にお帰りの際は、三洋堂書店にも立ち寄ってくださいね。

この記事で紹介した本

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月曜日の抹茶カフェ

著者名
青山美智子/著
出版社名
宝島社
税込価格
1,500円

前作はこちら

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木曜日にはココアを

著者名
青山美智子/著
出版社名
宝島社
税込価格
704円

青山美智子先生の新作はこちら

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赤と青とエスキース

著者名
青山美智子/著
出版社名
PHP研究所
税込価格
1,650円

『月曜日の抹茶カフェ』の装丁も手掛ける田中達也さんの最新の作品集はこちら

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MINIATURE LIFE at HOME

著者名
田中達也/写真・編集・デザイン
出版社名
水曜社
税込価格
2,420円

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