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【バイヤーO】の現代ミステリ概論 第2回 森博嗣(もり・ひろし)編

2020年12月23日 投稿

ミステリ好き【バイヤーO】が己の偏愛を撒き散らすこの企画。
綾辻先生がミステリ好きとしての生みの親なら、第二回は育ての親(?)と言えるあの人気作家です。
もう一度言いますが連載タイトルはラーメンズ(実質)解散の喪失感の中で思いついたもので、「概論」などと言いつつ、内容は秩序立っても、堅苦しくも、まして学術的では毛頭ありません。
拙稿中敬称略、ご寛恕の上ご笑覧いただければ幸いです。


先生……、現実って何でしょう? 『すべてがFになる』に始まる伝説

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すべてがFになる The perfect insider

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
869円

1996年刊行、第1回メフィスト賞受賞のデビュー作。ドラマ化、アニメ化、ゲーム化もされた代表作です。
第1回受賞、というのは、その後も辻村深月や舞城王太郎、西尾維新らを輩出するメフィスト賞の、単に初回の受賞者という意味でなく、この新人賞じたいが、森博嗣をデビューさせるために創設されたという事実を意味します(多少の語弊があるかも…)。
それぐらいの破格の作家、破格のデビュー作でありました。

天才科学者、真賀田四季を中心とする孤島の研究所。
両手足を切断され、ウェディングドレスを着せられた死体の出現で幕が開く連続殺人。現場に残された「すべてがFになる」というメッセージの意味するものは…

作者自身が某国立大工学部の准教授であり、サイエンス/テクノロジィの専門用語が頻出、登場人物の多くを占める「理系」のキャラクタと思考が前面に出た森作品は、当初「理系ミステリ」と呼ばれ喧伝されました。
その新奇性が特にこの作品のオリジナリティとトリックの衝撃を規定していることは間違いありませんが、森博嗣という作家の持つヴィジョンとイマジネーションは、そのような名付けに収まるスケールのものではないことが、やがて続々と発表される作品から明らかになっていきます。

他の多くの読者と同様、この作品に価値観がひっくり返るような衝撃を受け、その舞台(の厳密にはモデル)である名古屋への進学を考え始めた東北のミステリ好き高校生(ド文系)にも、それはまだ知る由もないことでありました。
なぜかその後、20年近く名古屋に暮らすことになることも…


「神のトリック」の高み。 『笑わない数学者』に震える

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笑わない数学者 Mathematical goodbye

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
946円

『すべてがFになる』から長編10作を数える、N大工学部の師弟、犀川創平と西之園萌絵を中心とする「S&Mシリーズ」、その第3長編です。

天才数学者の住まう館に訪れた犀川と萌絵の前で起こる、巨大ブロンズ像消失と連続殺人の謎。
オリオンを模した奇矯な建築「三ツ星館」と、伝説の数学者・天王寺翔蔵は、そこにどう関わっているのか…

ノベルス版、北村薫の名解説も名高い、森ミステリィにおける「本格」の頂点をなす傑作です。
一見、ミステリを読み慣れた人なら容易に見抜けるトリックを用いつつ、しかしそれが作品全体を貫くより大きな構図…それは「人類最大の謎」とも「神のトリック」とも擬えられる…を描くのに奉仕するものでしかない、それが実感された時の震えるような昂奮は、他の何からも得られるものではありません。
何度か再読していますが、その度自分が果たしてこの作品の真髄を捉えられているのかという懐疑を抱きます。
森博嗣という作家の底知れなさが、三作めにして早くも深く読者を呑み込んだ、超スケールの深淵。

それぞれ英題が付記される森作品ですが、この作品は「MATHEMATICAL GOODBYE」。
クソかっけー。
(言葉遣いが乱れました。失礼いたしました)


シンプル、シャープ、スパイシィ。 『黒猫の三角』と「Vシリーズ」

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黒猫の三角

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
880円

『有限と微小のパン』でS&Mシリーズが一区切り、間髪入れずに10作続くのが、『黒猫の三角』から始まる「Vシリーズ」。

保呂草潤平、小鳥遊練無、香具山紫子ら「阿漕荘」に住む面々が殺人事件に巻き込まれ、落魄した在野の科学者である瀬在丸紅子が探偵役としてそれを解決するのが基本フォーマット。S&Mに輪を掛けて、キャラクタたちの軽妙なやり取りがフィーチャされ、カジュアルな佇まいの作品が多いです。

しかし、油断して「れんちゃん萌え~」(古い)とか言ってると足元を掬われます。
詳しくはまったくお話できませんが、私は見事にすっ転びながら、名古屋に来てよかったと思いました(なんのこっちゃ)。


透明な叙情の戦記ファンタジィ。 『スカイ・クロラ』という美空

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スカイ・クロラ

著者名
森博嗣/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
2,090円

非ミステリにおける代表作。押井守による映画版も名作です。

戦争請負会社による戦争が続いている世界で、不老不死の存在である少年少女、「キルドレ」たちの物語が描かれます。
リリシスト・森博嗣の詩神が冴え渡り、透明な叙情と暗示的な物語に引き込まれます。ちょっと村上春樹っぽいと思っているのは私だけ…ですかそうですか。

そして特筆すべきは、鈴木成一による単行本装丁。
短編集含めてシリーズ六作、すべて異なる空の表情を閉じ込めた、もはや美術品の美しさ。
【バイヤーO】的装丁コンテストにおいて、殿堂入りの名品です。

書影だけでも見て帰ってください…

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ナ・バ・テア

著者名
森博嗣/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
1,980円

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ダウン・ツ・ヘヴン

著者名
森博嗣/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
1,980円

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フラッタ・リンツ・ライフ

著者名
森博嗣/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
1,980円

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クレィドゥ・ザ・スカイ

著者名
森博嗣/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
1,980円

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スカイ・イクリプス

著者名
森博嗣/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
1,870円

その真髄は短編にこそあり!! 『僕は秋子に借りがある 森博嗣自選短編集』

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僕は秋子に借りがある 森博嗣自選短編集

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
968円

驚異的な創作ペースの多作家である森は、短編の作例も多いです。
『まどろみ消去』などの短編集には、オリジナルな独立短編と、メインシリーズの短編が共存していますが、前者の自選集がこちら。

森博嗣という作家の最もコアな部分の、純粋な表現ではないかと思われる「キシマ先生の静かな生活」や、文集小説という独自性がヒューマンな感動へと導く「卒業文集」など、長編ではなかなか手が届かない、天才作家の内奥に触れられる貴重な作品が収められています。
前者では後に長編化された『喜嶋先生の静かな世界』、後者ではジュブナイル・ミステリ『探偵伯爵と僕』など、共通する視点を感じられる作品を併せて読むのもおすすめです。

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喜嶋先生の静かな世界

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
858円

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探偵伯爵と僕

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
583円

またメインシリーズの短編も、長編より小ぶりな事件を扱いつつ、ニヤリとできる伏線(とその回収)や、主要キャラクタの関係性が突然発展していたりと、こちらももちろん読み逃せません。
『どちらかが魔女』がそのコレクション。「刀之津診療所の怪」にヤラレなかったファンはいないでしょう…。

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どちらかが魔女 森博嗣シリーズ短編集

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
990円

すべてはここに回帰し拡散する。『四季』と「真賀田四季サーガ」

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四季 春

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
715円

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四季 夏

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
715円

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四季 秋

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
715円

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四季 冬

著者名
森博嗣/〔著〕
出版社名
講談社
税込価格
715円

『すべてがFになる』に登場した天才科学者、真賀田四季。
彼女の存在は一長編もシリーズも超え、森作品すべてを支配する存在感を放つようになります。
「人類で最も神に近い」という惹句がなんの虚仮威しにもならない、神秘的なまでの存在感は、文芸が描く「天才」の極北ではないでしょうか。
森博嗣という作家が、すでに述べたシリーズに加え、「Gシリーズ」「Xシリーズ」「百年シリーズ」「Wシリーズ」「WWシリーズ」と次々に展開される「サーガ」のその中で、最終的に何を描こうとしているのか、凡庸なる一読者には息を呑んで見守ることしかできません…その一端だけでも、たとえば四季自身の事件が描かれるこのシリーズから掴み取れればいいのですが。

※商品は各店舗でも取扱い中です

書いた人:バイヤーO
森先生に憧れて名古屋に来たので、名古屋地盤の三洋堂で仕事をしているのもそのおかげです。
大学ミステリ研での鉄板の議題は、S&Mの実写化キャスト案でしたね…(遠い目)。

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