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『神様のプロット』第3話

2026年6月5日 投稿

3話

 小学生の頃の僕は、どちらかと言うと変な子・・・だったと思う。そういう目線で見られている自覚もあった。
 集団で遊んだり、誰かと行動したりするのが苦手で、何をするにも一人。休み時間のチャイムが鳴ると、クラスメイトのみんなは賑やかな声を上げながら校庭へ駆け出していたのに、僕は席を立とうともしなかった。静寂が訪れた教室の中で、僕は机の中から漫画ノートを取り出す。鉛筆の線が走り続ける音に耳を澄ませながら、僕は黙々と漫画を描き続けた。

 最初は好きな漫画の模写をするだけだった。だけど、それだけではだんだん物足りなくなり、そのキャラクターを自分で動かしたくなった。それでも飽き足らず、今度は自分でキャラクターを考え、オリジナルの作品として創り上げるようになった。この頃から僕は、純粋に描くことが好きだったのだと思う。誰に見せる訳でもないのに、こんなに没頭してしまっていたのだから。
 そして人知れず、漫画のコンテストに応募を続けた。だけど……どれだけ挑戦しても、僕の漫画は小さな賞にすら引っ掛からなかった。
「もっと……もっと上手くならないと……」
 僕は焦った。その焦燥感は日に日に大きくなり、僕の頭の中を支配した。
 次第に自分の描く絵に自信が持てなくなり、デッサンや作画の参考書、さらには人体骨格の本まで買ってもらい読み漁るようになった。この時、僕はまだ小学五年生。ただでさえ人と行動するのが苦手なのに、内向的な性格にさらに拍車をかけることになる。

 ところが──そんな孤独な世界を生きる僕に、初めて興味を示してくれたのが柊太だった。
「辰希の漫画、面白いね。しかもどんどん上達してるように見えるし」
 そんな声をかけてくれた柊太を、最初は疑いの目で見ていたことは今でも鮮明に覚えている。どうせからかっているだけだろうと思っていたから。だけど、『どんどん上達してるように見える』と言うことは、もしかしてずっと見てくれていたのか? と思い、不思議と悪い気分にはならなかった。
 そして、転機が訪れたのは六年生の時。相変わらず自分の絵に納得がいっていなかった僕に対して、柊太はこう声をかけた。
「辰希の漫画って、絵は最高なのにストーリーが微妙なんだよなぁ……。僕が考えてもいい?」
 予想だにしていなかった辛辣な言葉に、思わず頭に血が上るのを感じた。自分の漫画が評価されない理由が、まさかストーリーにあったなんて思いもしなかったからだ。言い返そうと口を開きかけた僕の前に、柊太は「例えばさ──」と畳みかけ、手元のノートにペンを走らせながら「僕なら主人公をこう動かすよ」と迷いなく語り始めた。
 最初は半信半疑だったけど、たしかに柊太が思い描くストーリーは面白いと感じた。僕の手で描かれたキャラクターが、僕ではない別の人が考えるストーリーによって動く。不思議な感覚だったけど──次のコンテストは、アイデアを出し合って共同で創り上げた漫画で挑むことにした。

 そして──僕は遂に、夢にまで見た光景を目にする。
「やった……! 名前あったよ柊太!」
 奨励賞の欄に名前を見つけた。大賞に比べたら随分下ではあるけど、初めて結果を残すことができた。
「良かったな辰希! やっぱり僕の言った通りだっただろ?」
 そう言いながら笑みを浮かべる柊太を見て、僕は痛感した。
 自分の漫画がずっと受賞に届かなかったのは、僕の絵が下手だったからではない。僕はあくまで純粋に描くことが好きなだけであって、ストーリーの組み立てが得意ではなかったからだ。自分だけで漫画を描いていたら気付けなかった事実を、柊太は的確に見抜いて証明してくれた。

 それから僕は、漫画を描く時は柊太にアドバイスを求めるようになった。作画担当とストーリー担当に分かれ、お互いの長所を掛け合わせて一つの漫画を創る。誰かと行動するのが苦手で内向的だった自分が、柊太との出会いで変わることができた。
 そして、小学校の卒業式を迎えるタイミングで、僕は改めて柊太に声をかけた。
「柊太──これからも僕と、一緒に漫画を描いてくれないか?」
 出口の見えない暗闇のトンネルを彷徨っていた僕を、光の当たる場所へ導いてくれた柊太。彼となら、これからも良い漫画が描けそうだと確信していた。
「あぁ、もちろん。一緒にプロ目指そうよ」
 お互い少しだけ見つめ合い、ニヤッと笑みを浮かべる。卒業証書が入った筒でハイタッチを交わし、桜吹雪が舞う木の下で二人して高らかに笑い合った。

 この先に続く未来に思いを馳せながら、僕らは同じ中学校へ進学した。

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