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『神様のプロット』第2話

2026年5月22日 投稿
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2話

 荒れ狂うように盛り上がった同窓会も、気が付けばお開きの時間を迎えていた。もちろん僕は、その輪の外にいたけど。
「おーい! 根岸先生・・も二次会行こうぜー!」
 お腹も満たされたし帰ろうと思っていたところに、叫び声にも似た乱暴なお誘いが耳に入る。
 嫌悪感で虫唾むしずが走る。僕の仕事のことなんて知りもしない奴らから、先生なんて呼ばれる筋合いは無い。
「ぼ、僕は大丈夫……仕事残ってるから……」
 できるだけ目を合わせないよう適当に返事を済ませ、その場からそそくさと立ち去る。一体どれだけのアルコールを摂取したのか、奴らの吐息はむせ返るように臭かった。

 バレないように早歩きをして、カフェから離れる。背中越しに「ちっ、何だよノリわりーな!」という怒号が聞こえてきたけど、無視して足を進めた。
 陽キャラなんて所詮、その程度だ。自分と違う人間を見つけては面白がり、それなのに自分の思い通りにならないとわめき散らす。到底、僕の人生に相容あいいれる存在ではなかった。漫画の中に登場させて、完膚無きまで懲らしめてやろうかと思うほど腹立たしい。

 そんなことを思いながら、日が暮れた故郷の道を歩く。せっかく帰省するならと思い、久しぶりに実家へ立ち寄った。
「ただいま~」
 懐かしい玄関の引戸を開ける。ぼんやり光る灯りの向こうから、エプロン姿の母が駆け寄ってきた。
「おかえり辰希。今日は同窓会だったんだってね」
「うん。さっき終わったとこ」
 そう言いながら、リビングへ足を進める。ほどよく乱雑に家の物が置かれた空間は、先ほどのカフェとは対照的に安心感があった。キッチンへ戻る母が「ご飯は要らないよね?」と聞いてきたので、「あぁ、もう満腹だよ」と笑い交じりに返事をした。
 おそらく母も、僕が大人数の場が苦手だと分かっているのだろう。同窓会について、それ以上のことは聞かなかった。
「ところで、最近どうなのよ? 漫画の方は」
 小気味いい包丁の音を刻みながら、母は僕にそう尋ねる。
「まぁ、順調かな。漫画だけで生計は立てられてるから大丈夫だよ」
 そう言いながら、料理を進める母の横を通り、酔いを覚まそうと冷蔵庫から水を取り出す。
 生計を立てられているのは事実。だけど、順調というのはほとんど嘘だ。冷たい水を一気に口へ運び、喉を潤す。胃の奥底がひんやりと冷えたところで、「ごちそうさん」と言って自分の部屋へ向かった。

   *

 長らく誰にも触れられていないであろうドアノブに手を掛ける。部屋の中には、幼い頃から使っていた勉強机と、空っぽになった本棚。必要な荷物のほとんどは、上京する時に持っていった。
「昔はここで漫画ばっかり描いてたなぁ──」
 そう呟いて、昔を懐かしむように勉強机の前に座る。

 ここへ腰掛けると、色々なことを思い出す。
 僕はひたすら原稿へ向かい、その隣で柊太がアイデアを次々と出してくれた。僕が思い描く世界観やストーリーラインを的確に汲み取り、次の方向へ導いてくれる。まるで僕の頭の中が見えているのではないかと錯覚してしまうほど、柊太のクリエイターとしての才能は群を抜いていた。
 柊太が創造するプロットの上を、僕の握るペンがなぞっていく。二人で呼吸を合わせて一つの作品を創り上げる、本来であれば欠けてはならない大切な存在だった。かつて光り輝いていたあの日々は、これから漫画家としてどれだけ長く生きていくとしても、決して忘れることはないだろう。
「柊太──」
 そう呟いて、手元にある引き出しを開ける。
 その中には、使い古された一冊のノート。[アイデアノート]と名付けられたタイトルの字は、僕の見慣れた馴染みのある筆跡だった。

 柊太は病院のベッドで過ごしている時も、このノートにアイデアを書き留め続けていた。病魔にむしばまれ、遂に鉛筆すら持てなくなったその瞬間まで、僕の漫画のことを考えてくれた証。柊太がこの世を去った時、柊太のお母さんから受け取った、相棒の形見だった。
 このノートの中には、僕でさえまだ見ぬアイデアが記されている。柊太が最期の力を振り絞って遺したアイデアだ、面白いに違いない。だけど……五年経った今も、僕はこのノートを開いていない。いや、開くことができずにいる。
「柊太が今の僕を見たら、何て思うだろうな……」
 中身を見ないよう、慎重に引き出しからノートを取り出す。
 もう、僕の隣に柊太はいない。にも関わらず、このノートのアイデアにすがってしまったら──それは自分の中で反則だと思っている。柊太の死を受け入れず、その現実と向き合えていない気がするからだ。変な根拠だと思われるだろうけど、きっと漫画家としての本能がそうさせているのかもしれない。

「なぁ柊太──僕の才能ってやつは、底を突いたのかな? またあの頃の漫画を描く為に、僕は何をすればいい?」
 返事をしてくれる相手もいないのに、ノートの表紙を見つめながらそんな呟きが口から漏れ出る。魂が抜けたように俯いたまま、僕は柊太と出会った在りし日の記憶を思い出し始めた。

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