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【熱田図書館コラムVol.28】心の奥に押し殺されてしまった誰にも届かない声なき声「52ヘルツのクジラたち」を推す

2025年12月14日 投稿

図書館館長なのに「借りるより買いたい本」を推すシリーズ vol. 28

日々10万冊を超える本に囲まれながら年間2,000冊以上読む図書館館長がどうしても手元におきたくて買ってしまう本とは?

「52ヘルツのクジラたち」

最初の読者であった担当編集者が一読して衝撃を受け、号泣を超えて鼻血が出たという作品「52ヘルツのクジラたち」。
発売されたのは2020年4月。コロナ禍で人と人が距離をとらなければならなくなった時だ。2021年に本屋大賞を受賞した作品でもある。


クジラの声の周波数は凡そ10ヘルツから39ヘルツ。52ヘルツで鳴くクジラの声は、広い海で響いているが、受けとめる仲間はどこにもいない。
クジラの群れが近く触れ合えるほどの位置にいたとしても気づかれない。誰にも届かない。その孤独は如何ばかりだろう。


主人公三島喜瑚は、貴重な青春を犠牲にし、義父の介護を家族から一身に押し付けられ、そのうえ暴力や暴言を受け続け、誰からも救われず壊れてしまうところだった。彼女の苦痛の叫び声は誰にも届かなかった。52ヘルツのクジラのように。

ある日、死ぬつもりで町を徘徊していたところ、偶然、高校の友人美春とその友人のアンさんと出会う。彼らのおかげで毒親と決別し、都会から小説の舞台である大分県の小さな海辺の町にひとり越してきた。
そして、孤独な魂が引き合うように、その町でボロを身に纏い痩せ細った少女と出会う。声を出せない少女と。

二人は徐々に距離を縮めていく。
そして残酷な事実が判明する。少女と思っていた子供は母親から虐待を受け、身内から“ムシ”と呼ばれていた少年だった。

人との距離が近い田舎町にもかかわらず、誰も少年に救いの手を差し伸べない。彼と一緒に暮らす決意をする喜瑚。過去の自分を重ね、また犯してしまった過ちの贖罪の意識から。

徐々に喜瑚はじめ登場人物たちの複雑な事情が明かされていく。大切な人のことを知っていると勝手に思い込み、幾度も傷つけていたことに苛まれる主人公。
―――2025年本屋大賞『カフネ』の主人公がそうだったように。


52ヘルツの孤独な声。互いに求め合う魂の絆:「魂の番(つがい)」。
サスペンスかと思わせる予想外の展開の連続。残酷な伏線回収。感動の渦が洪水のように押し寄せる。
小職は、花粉症に罹患したかのように目や鼻から体液を垂れ流しつつ一気に読み進めた。世界中の多くの人々が52ヘルツのクジラなのだろうと思いながら。そしていつか「魂の番」に出会えることを願いつつ。

本書は『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』の文中にも登場するので是非こちらも。

「52ヘルツのクジラたち」はこちら

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52ヘルツのクジラたち

著者名
町田そのこ/著
出版社名
中央公論新社
税込価格
1,870円

熱田図書館長 佐々木

5歳で角膜移植した際、ドクターからの「喫煙禁止」と「読書禁止!」との言葉を忠実に守り続けるも、なぜか現在図書館長。

趣味は合気道、英語学習、旅行、温泉、アニメ、韓流、カラオケ、SNS、読書?
その他テニス、スキューバ、サーフィン、水泳・・・多趣味でキリがありません。

今現在の推しアイドルは、「ILLIT」! かつては「少女時代」。
アフタヌーンティーは日本、英国など有名店を制覇中。
こだわりはスコーン。

文中で登場した作品たち

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カフネ

著者名
阿部暁子/著
出版社名
講談社
税込価格
1,870円

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夏の終わりに君が死ねば完璧だったから

著者名
斜線堂有紀/〔著〕
出版社名
KADOKAWA
税込価格
748円

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